みすず書房

近代日本の歩みは東南アジアの歴史に、いかなる意味をもったか。この問いにこたえ、日本と東南アジアの関係を、過去・現在・未来の長い時間軸で捉えようと、専を異にしながら東南アジア研究の最前線にある16氏が一堂に会した。これはその稀なるシンポジウムの記録である。
地域は、タイ、フィリピン、ベトナム、インドネシアの全域にわたり、テーマは、15世紀の交易から、20世紀の民族運動、アジア・太平洋戦争期の日本軍政、そして戦後の賠償、ODA、将来像にまで及ぶ。いずれの報告も、きわめて要点を衝いた的確さとともに、新しい事実の発掘、新しい視点をも含む充実ぶりである。
例えばフィリピンについていえば、マクロにはアメリカと日本という2つの大国に翻弄されたフィリピン、ミクロには雑貨からみた日比関係が捉えられ、そこにすでに「モノ」の関係中心で「ヒト」の関係不在の歴史がある。また、「賠償」については、その「経済協力」との関係、それに対する新聞社説の論調に当時の国民の意識を追い、今日にもきわめて示唆的である。
曲折にとんだ日本・東南アジア関係の歴史的全側面への簡潔な理解と展望を、この1冊の本が与えてくれる。