みすず書房

〈国際交流よりも国内交流を、国内交流よりも、人格内交流を! 自己自身のなかで対話をもたぬ者がどうしてコミュニケーションによる進歩を信じられるのか〉

〈俺はコーヒーがすきだという主張と俺は紅茶がすきだという主張との間にはコーヒーと紅茶の優劣についてのディスカッションが成立する余地はない。論争がしばしば無意味で不毛なのは、論争者がただもっともらしいレトリックで自己の嗜好を相互にぶつけ合っているからである。自己内対話は、自分のきらいなものを自分の精神のなかに位置づけ、あたかもそれがすきであるかのような自分を想定し、その立場に立って自然的自我と対話することである。他在において認識するとはそういうことだ〉(本書より)

著者没後に見出された3冊のノートを一書にまとめた。1943年から1987年にかけて断片的に記された多岐にわたる文章のそれぞれは、著者の思想の原石であり、このノートが、著者座右の、いつも自己の原点に立ちかえるよすがであったことを示す。