みすず書房

拒絶された原爆展

歴史のなかの「エノラ・ゲイ」

AN EXHIBIT DENIED

判型 四六判
頁数 648頁
定価 4,180円 (本体:3,800円)
ISBN 978-4-622-04106-1
Cコード C0036
発行日 1997年7月31日
備考 現在品切
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拒絶された原爆展

スミソニアン〈原爆展〉はなぜ挫折したのか。全米に激烈な論争を巻き起こしたエノラ・ゲイ事件の顛末を、元館長みずからが綴る「現場検証の記録」。ついに実現することがなかった幻の展示の全貌を明かす。

1995年、ワシントンの国立スミソニアン航空宇宙博物館は、広島に原爆を投下したB29爆撃機「エノラ・ゲイ」を中心とする米国初の原爆展を企画した。しかし、この企画は国内に激しい論議を引き起こし、米国議会や在郷軍人会などの圧力で、開幕直前の1995年1月、原爆展はついに中止に追い込まれた。当時アメリカでは、連日のようにメディアで報道がくり返され、日本でもテレビや新聞で大きく取り上げられた。この渦中にあって、原爆展を企画し長年にわたり準備をすすめてきたスミソニアン航空宇宙博物館館長マーティン・ハーウィットは、その年の5月に同館を辞任、それまでの経過を詳述した『拒絶された原爆展』を書き上げた。
エノラ・ゲイ機長だったポール・ティベッツ退役将軍などとの折衝、戦勝記念のような展示なら協力したくないという日本側関係者らの理解を得るまで、広島、長崎をはじめ何度も訪ねて説得工作をしたこと、歴史的事実を「展示」するとはどういうことかについての創意工夫……
本書は、日米の戦争観の共通性と違いを浮き彫りにしつつ、「ヒロシマ・ナガサキ」の問題を新たに見つめるための最上のドキュメントとなろう。

目次

まえがき
謝辞
凡例
登場人物

1 回想
2 厳粛なる誓い
3 国立航空宇宙博物館
4 新館長
5 エノラ・ゲイの展示場探し
6 展示計画の立案
7 スミソニアン論争
8 わずか五人の老兵
9 日本
10 コンセンサスを求めて
11 友人を失う
12 展示台本
13 解禁された文書
14 空軍協会の歴史観
15 錯綜した軍の組織
16 内部の反対と再編成
17 新しい味方を求めて
18 軍人連合と戦史官たち
19 メディアと博物館の防戦
20 展示台本をめぐる交渉
21 新長官——スミソニアンの優柔不断
22 日本側の懸念
23 中止決定
24 中止決定直後の余波
25 最終幕

エピローグ
年表
原注
監訳者あとがき
索引

書評情報

三浦俊章(朝日新聞編集委員)
朝日新聞(書評面)「ひもとく——オバマ大統領と広島」2016年5月22日(日)
猪野修治
湘南科学史懇話会通信第3号(1999年5月)
斉藤道雄(TBS報道特集ディレクター)
科学1998年1月号
佐々木力
信濃毎日新聞1997年12月28日
大塚隆(朝日新聞科学部次長)
SCIaS1997年12月19日号
谷川肇
月刊ミュゼ1997年10月
前田哲男(東京国際大学教授)
週刊読書人1997年10月17日
岩渕潤子(美術館運営・管理研究者)
新美術新聞1997年10月11日
関千枝子(ノンフィクション作家)
北海道新聞1997年10月5日
週刊現代
1997年10月4日
坂本多加雄
読売新聞1997年9月28日
進藤栄一(筑波大学教授)
日本経済新聞1997年9月14日
伊佐千尋(作家)
統一日報(大韓民国)1997年9月13日
西嶋有厚(福岡大学教授)
赤旗1997年9月8日
岩手日報
1997年8月18日
毎日新聞「余録」
1997年8月6日

関連リンク

中國新聞 ヒロシマ平和メディアセンター

中國新聞2015年3月2日掲載の記事「[ヒロシマは問う 被爆70年] 「神話」の壁」(金崎由美記者)は、ハーウィット元館長に取材。

「——大量に送り付けられた抗議文から、壮絶な批判の矢面に立っていたことが伝わってきますね。
博物館としてやるべきことを全て追求したまでだ。機体の展示だけでなく、歴史的な背景についても最新の研究成果を提示する。来館者が豊富で正確な情報を得る場にする。米国と広島、長崎の両方の見方を尊重し、知ってもらう計画だった。 」
「——20年後の今なら、当初意図したような展示ができると思いますか。
昨年は第1次世界大戦から100年の節目だった。欧州が統合し、かつての敵国同士の関係性は変化した一方、(オスマントルコ帝国によるアルメニア人虐殺をめぐり)トルコとアルメニアは犠牲者数や帝国政府の関与について、まったく違うストーリーを持っている。見解は大きく隔たったままだ。 」
「——保管書類を昨年になってスミソニアン文書館に委ねました。理由は。
スミソニアン協会の評議員には、われわれの展示計画に絶対的に反対していた連邦議員が今もいる。ほかの展示で、公開させたくない展示や資料を破棄させようとする圧力もあると聞いていた。資料を譲っても破棄されるのではないかと強く警戒し、関係者を通して大丈夫だという確信を得る必要があった。
大きな議論を呼んだ事象について、研究者が光を当てる試みは大切なことだし、資料は必ず役に立つと思う。 」
「——歴史を丹念に探ることについて、常に誠実でいるという印象を受けます。
文書館でも所蔵されている文書だとしても、物事の背景を捉えるためには1次資料があればあるほど良い。復員軍人協会による書き込みが入った展示台本もあるなど、非常に興味深いだろう。 」http://www.hiroshimapeacemedia.jp/?bombing=%EF%BC%BB%E3%83%92%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%83%9E%E3%81%AF%E5%95%8F%E3%81%86%E3%80%80%E8%A2%AB%E7%88%86%EF%BC%97%EF%BC%90%E5%B9%B4%EF%BC%BD%E3%80%80%E3%80%8C%E7%A5%9E%E8%A9%B1%E3%80%8D%E3%81%AE%E5%A3%81


記事では、当時広島の原爆資料館元館長だった原田浩氏にも現在の思いを聞き、またスミソニアン航空宇宙博物館の広報専門官や、ニューメキシコ州ロスアラモスの国立研究所付属科学博物館を訪ね、ヴァージニア州立ジョージ・メイソン大学の歴史学者マーティン・シャーウィン教授と学生たち、ワシントンのアメリカン大学歴史学部ピーター・カズニック教授、カリフォルニア州スタンフォード大学バートン・バーンスタイン名誉教授らに丁寧に取材。スミソニアン原爆展論争から20年後のいまを丹念に追っています。
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