みすず書房

この本はアートに関するものである。けれども、そのために登場する三人の人物のうち、ひとりをのぞいて直接アートとは関係がない。天才という名をほしいままにしたユニークな音楽家グレン・グールド、一風変わった、執着的な構成で際立つ作家トマス・ベルンハルト。このような二人の表現者を、アートに関する言説のただなかに置くことを許すのは、もうひとりの登場人物である。ゲルハルト・リヒター。現代ドイツを代表するアーティストのひとりである彼によって、グールドとベルンハルトはここに繋ぎ留められている。リヒターのためのグールド、リヒターのためのベルンハルト、そして何よりも、リヒターのためのリヒター。この本は、グールドやベルンハルトが、その背後にいるリヒターの方を指し示すように、リヒターのさらに背後の何ものかを指し示している。それがアートだ。

目次

表現の原子
音の粒子 グレン・グールド
言葉の粒子 トマス・ベルンハルト
イメージの粒子 ゲルハルト・リヒター
絶望のマシーン

あとがき