みすず書房

〈はじめ、私は「日本人」であるよりも「世界人」であればよいのではないかと考えた。青春の十年以上もパリで住み、世界のあらゆる文化圏に通ずる場所で、世界人になろうと努力し、実践した。ところが、世界を見る場合、逆に自分の眼を凝視しなければならなくなる。それは当然、自分を生育し、形成した特殊な諸要素につながる。私は明らかに日本人であったのだ。日本人としての存在を徹底してつかまないかぎり、世界を正しく見渡すことはできない。〉
ナショナリズム、民族主義といった観点を離れて、世界に対しての存在感としての己を見つめるべく岡本太郎は行脚する。

〈それは見えない記号でありながら、また生活的には、形となったり色となって表現される。こういう無言の地点から、民族の文化、芸術を理解したい。〉
日本の心性の原風景を探るべく全国を巡り歩く岡本太郎の壮大なフィールド・ワークは、『忘れられた日本/沖縄文化論』(毎日出版文化賞)『神秘日本』に結実する。