みすず書房

1980年代からこの写真家は長期にわたる撮影取材で日本人の痕跡をたどってきた。ブラジル移民一世の肖像『遥かなる祖国』、旧ソ連の捕虜収容所跡『沈黙の大地/シベリア』。その到達点がアメリカ各地に戦時日系人強制収容所の跡地を訪れ、それを体験した一世・二世の晩年の姿をとらえたこの写真集である。マンザナー、トパーズなど砂漠の光景と現在も残された物たち。そして百歳を迎えようとする人々が見る者にそそぐ視線。
大判カメラで克明に写し取られた作品からは、言葉では伝えることが難しい気配のようなものが伝わる。それを高度な印刷で再現すべく、本書では細心の製版が実現された。
本書に寄せられた日系三世の作家カレン・テイ・ヤマシタの文章はこう結ばれている。「すべてはとてもすばやく起こった——ありえない夢のように。しかし新正の撮った自然および人間の風景がここにあって、それは本当に起こったのだということを、あなたに教えてくれる。飛ぶように逃げ去ってゆく証拠だが、証拠であることに変わりはない。それは未来の自由のために力を与えてくれる、滅びからの大きな贈り物だ」(管啓次郎訳)