みすず書房

「1995年1月17日早朝のことだった。いつもどおり7時少し前に起き、いつもどおりテレビをつけると、何かいつもとは違った気配が、画面の向こうで生じていた……」

前日の午後まで、神戸に帰省していた著者が、東京で知ることになった阪神・淡路大震災。両親を含めた親族らが暮らす街、神戸を襲った未曽有の大災害からの5年の日々を、「半ば被災者、半ば目撃者」である一人の女性としての著者は、いかに見、いかに生きたであろうか?
震災直後の凄まじい崩落の実態、被災者たちが強いられる不条理な現実、公的援助への闘い。「個」としての確かな視点からの文章は、〈震災以後〉の神戸が直面する様々な困難を、リアルに浮かび上がらせる。
更に、老いた母親の介護と別れ、同世代の友人たちが向き合う苦渋の生、市民不在のまま進められていく「再建」への疑問……「目覚ましい変貌を遂げていく街の蔭で、ひっそりと消え去っていった大切なものたちへの愛惜の思い」に支えられて、〈神戸〉の記憶と現在がゆるやかに語られていく。
「5年にわたる長い沈潜と反芻をくぐりぬけ、いまようやく喪われた神戸の記憶が紡ぎだされた」と鎌田慧氏にも推薦される、静かで強い長篇エッセイの登場である。

目次

I 大震災ノート
II 悼む歳月 女友だちへの手紙
あとがき