みすず書房

日本文藝の詩学

分析批評の試みとして

判型 四六判
頁数 312頁
定価 3,520円 (本体:3,200円)
ISBN 978-4-622-04668-4
Cコード C3095
発行日 1998年11月10日
備考 現在品切
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日本文藝の詩学

「作品を批評するとき、よんだ後の感想をひとまとめに述べる印象批評や、その作品本文が作者自身の書いた原文と、どれぐらい違ったものになっているか、あるいはどれだけ原本に忠実であるか——等を検討する本文批判とは違い、その作品がわれわれを感動させるのは、どのような書きかたになっているためかを細かく調べることが、すなわち分析批評なのである……〈この作品は、なぜわたくしをこれほど感動させるのか〉、あるいは〈この作品が感動的でないのは、構成が粗末なためか、語句の選択が不適切なためか、作者自身の感性が鈍いためか〉等を、あくまでも作品本文に即して考えてみようとした」(あとがき)。

本書の中核ほ、作品=テクストを精査し、読むひとを感動させるゆえんを明らかにした、分析批評の基本的実践である。芭蕉の発句「鴨の声ほのかに白し」と「兵どもが夢のあと」を詳細に読み込み、俳諧の流れに位置づけ、その普遍的な意味を明示した画期的な論考をはじめ、禅林詩と芭蕉俳諧の密接な関連、「さび」の系譜、さらに三島由紀夫の作品構造を探った2篇等、批評方法と感受性を鮮やかに示した9篇を収録する。

〈海暮れて鴨の声ほのかに白し〉——「単に客観的でありさえすれば、すぐれた句になるのであろうか……われわれがこの句にひきつけられるのは、幼稚な客観写生説が主張するがごとき意味での描写性ではなく、描写のかなたに潜む普遍世界の巨大さによってなのである」(「さび」の系譜)。