みすず書房

翼よ、北に

NORTH TO THE ORIENT

判型 四六判
頁数 282頁
定価 2,640円 (本体:2,400円)
ISBN 978-4-622-04868-8
Cコード C0098
発行日 2002年8月9日
備考 現在品切
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翼よ、北に

簡素な生活のなかで、豊かに生きる智慧を綴った『海からの贈りもの』。その著者、アン・モロー・リンドバーグは、女性飛行家の草分けでもあった。本書は〈飛ぶこと〉の魔力に捉えられた若々しい感動が息づくデビュー作である。

航空黎明期の1931年、アンは夫、チャールズ・リンドバーグとともに、単葉のロッキード・シリウス機でニューヨークを出発、カナダ、アラスカ、シベリア、千島列島を経て、日本、中国にいたる大圏ルートの調査飛行をおこなった。飛行の体験と、さまざまな風物、ひとびと——ここには、みずみずしい感受性とユーモア、そして人間への愛情にあふれた〈最上の旅行者〉アンがいる。

なかでも、「サヨナラ」の一語にこめられた深い心をみごとに洞察した日本にかかわる章は、わが国の読者に新しい発見をもたらし、静かな感動を呼ぶ。チャールズ・リンドバーグによる20葉の地図を収める。

編集者からひとこと

私たちが旅客機に乗り込むとまずサービスされる温かいおしぼり、それに機内への手荷物持ち込み、どちらもチャールズ・リンドバーグの発案だということをご存知だろうか?

それが当たり前になるずっと昔、まだ〈飛ぶこと〉が〈魔法〉の彩りを帯びていた1931年の夏、リンドバーグ夫妻がニューヨークから北極上空を通過して東洋へ向かう大圏航空路開拓に挑んだ記録が『翼よ、北に』である。この冒険に選ばれたのが、二つのフロートを備えた単葉・単発のロッキード・シリウス水上機である。

巻末付録には、強行着陸時・強行着水時・パラシュート降下時の非常用品、非常食料、個人装備品など細々した「機器・用品リスト」が付されているが、真っ先に挙げられているのは、38口径拳銃なのだ!

このリストに関して、無線機器・航法用品・機体とエンジンの部品など、専門的なことがらについて、航空・通信に詳しい方々にご協力いただけたのは、本当にラッキーなことだった。とりわけ、昭和30年代初期に北極横断ジェット旅客機航路の確立にたずさわった津村國雄氏のお力添えがなかったら、本は出せなかったといってもよい。

北極圏では、磁気嵐の影響で方角を失った1000機以上が遭難している、干潮・満潮の差が異常に大きい、濃霧は突然発生する、非常に大きな蚊が短い夏のあいだに交尾と産卵をするために大群をなして押し寄せる……アンとチャールズも寄航したアラスカのポイント・バローに100回以上飛んだことがある津村氏ならではのリアルな体験談に驚きながら、パイオニアたちの仕事にあらためて感銘を受けたのだった。(2002年8月 成相雅子)