みすず書房

「いつも人間の精神の分析を経糸に、社会の問題を緯糸に、時代の織物を織っていたかのようだ。……1980年代の富裕社会が終わり、不況や金融・財政の破綻を国家主義の外枠で締め付けて乗り切ろうとする、保守の意思を浮かびあがらせている。浮かびあがらせ、批判しながら、もっと違った生き方があると語り続けてきたつもりである」(「著者あとがき」より)

本書は、3年半にわたって書き綴られた信濃毎日新聞連載の〈今日の視角〉をまとめたものである。戦争について——日本人の侵略戦争否認や無知、中東戦争、チェチェン戦争——、北朝鮮、台湾、インドシナについて、犯罪事件(とりわけ少年犯罪)、教育問題——教師への抑圧、心の教育と愛国心の強制——、精神科医療の問題、そして折節の辺境からの旅の便り……。

大きく論議されてきたトピックから巷では見過ごされてしまった重要な事件まで、昨今の時事問題に関して、才気に満ちた批判的精神で辛口に論じたエッセイ集である。まさに「今日への視角」を呈示する好個の書。