みすず書房

「演奏家は、もともと切り換えるのが商売だ。モーツァルトを弾くときとショパンを弾くときでは、あきらかに演奏身ぶりが違う。(…)私の場合は、ピアノを弾いたり文章を書いたりするので、もうひとつ切り換えスイッチをしのばせている。(…)ステージからの比較芸術論をもくろむ私は、まさにそのずれにこそ興味がある。」

ジャンルを超えて、表現の向こう側にある「創作身ぶり」について、著者は長年考え続けてきた。本書はこのテーマに、6組の作曲家と作家をとりあげて迫った、なんともユニークな文化史エッセーである。

カメレオンのように変化するモーツァルトの音楽。なぜロマン主義は文学が先行するのか。記譜をも拒むようなショパンの即興演奏。ワーグナーと倒錯のエロス。言葉で「作曲」しようとしたルーセル。ドビュッシーはランボーの境地に達するか。

楽譜にも分析用語にもたよらずに、根源的ポエジーを表すべく音と言葉が交錯する瞬間をとらえようとする本書は、二つの領域を往還する著者ならではの作品となった。