みすず書房

■ジークムント・フロイト(1856-1939)が残した二百余におよぶ著作のなかから重要著作43篇を精選。論文/著作成立の背景、その後の理論・概念の発展をフロイトの個人史・精神分析史との関わりから解説し、精神分析体系のダイナミズムに迫る。
■我が国を代表する精神分析家が執筆陣。今日の臨床の見地からフロイトの理論と言葉を再検討する。
■第2巻は『精神分析入門』(1916-17)から『防衛過程における自我の分裂』(1940)まで。対象喪失の意味を問い、自我の概念の提示、死の本能の考察から宗教論へ、人生と思索の関連が見えてくる。
■巻末に、精神分析史の理解に役立つ「人名解説」「用語解説」付き。全2巻。

目次

『精神分析入門』/『続精神分析入門』——自己分析への招待  西園昌久
『悲哀とメランコリー』を読む  皆川邦直
『ある幼児期神経症の病歴より』——精神分析の百科事典  前田重治
『子供が叩かれる——性倒錯の発生の知識への寄与』を読む  福本修
『無気味なもの』——フロイトは何を見たのか  北山修
『快原理の彼岸』——死の欲動と反復  小川豊昭
『集団心理学と自我の分析』——欲動論から関係理論へ  相田信男
『自我とエス』を読む  満岡義敬
道徳の衣を着たマゾヒズム『マゾヒズムの経済的問題』  川谷大治
『「マジック・メモ」についてのノート』のもつ射程  小川豊昭
『否定』とその後の展開  小川豊昭
不安の起源とその行くえ——『制止、症状、不安』  小林和
『素人による精神分析の問題——ある中立の立場にある人との問答』——精神分析家の資格と訓練  西園昌久
『ある幻想の未来』と今日の世相  坂口信貴
『文化への不満』——フロイトの「居心地悪さ」  北山修
『終わりある分析と終わりなき分析』——精神分析の限界とフロイトの限界  藤山直樹
『分析技法における構成の仕事』——過去と今をつなげることをめぐって  菊地孝則
『人間モーゼと一神教』——超自我・大洋感情をめぐって  武田専
フロイトにおける自我の分裂——『防衛過程における自我の分裂』を読む  古賀靖彦
精神分析の誕生と不気味なもの——解題に代えて  福本修

フロイト全著作一覧
用語解説・索引
人名解説・索引

編集者からひとこと

第1巻(1895-1916)につづき第2巻で取り上げ、論じられるのは、1916年から亡くなるまで、さらに死後に出版された後期フロイトの論文。巻頭の『精神分析入門』からは、精神分析が国際的な広がりを帯び、学問的な地位を確実なものにしつつある実感と治療者として意欲を充実させたフロイトの姿が浮かび上がってくる——

「分析にとって必要な報告が得られるのは、患者と医師との間に特別な感情の結びつきが成立した時にかぎるのです」(『精神分析入門』)

これまでの業績に立ち止まらず、理論の修正・発展にも精力的に向い、心の成り立ちを意識・前意識・無意識でとらえた初期理論、いわゆる「局所論」と並置させるものとして、心の動きの方に注目した自我・超自我・エスによるメカニズム「構造論」のモデルを提示する——

「自我にとって生きるということは愛されているということ、エスの代表として現われる超自我によって愛されるということと同じ意味である」(『自我とエス』)

各地での講演会、著作執筆、理解者たちと交わす大量の手紙…過密スケジュールではあるが気力に充ちた毎日に、死が蠢き始める。1920年、弟子の一人タウスクが自殺、支援者であったフロイントが癌で突然世を去り、その5日後、娘のゾフィーが肺炎で死亡。1923年にはゾフィーの忘れ形見・最愛の孫ハイネレが高熱のため病死、また自身も口蓋癌に冒されていることが発覚する——

「われわれは次のようにしか言いようがない。すなわち、あらゆる生命の目標は死であり、翻って言うなら、無生命が生命あるものより先に存在していた、と」(『快原理の彼岸』)

そして、対象喪失、死の本能の理論の深化へと突き進む………。
フロイトにより簡潔で言葉の創意を活用したタイトルがつけられ、巧みな言葉遣いによりつづられた著作・論文のひとつひとつを年代順にたどっていくと、人生という運動のなかで理論が生み落とされてゆくさま、フロイトの人生・人柄を強く意識するようになる。
『ヒステリー研究』から『防衛過程における自我の分裂』まで、フロイトの重要な著作をすべて読むことは果たせないとして、その論文・理論と長年向き合ってきた筆者たちによる解説を、背景をまじえ年代順に追うことで、図らずもフロイトの人の魅力が伝わるものになった。そこに、ほかでもない「精神分析家」が「フロイトを読む」ことの魅力と醍醐味がある。

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