みすず書房

「過ぎ去ろうとしない記憶は、老いてさらに鮮明になっていく。今生きている日本人に、そして中国人に、中日戦争で何が起こったか、民衆はいかに苦しんだか、知ってもらうために記憶は生き続けている」(「第1章」より)
日中戦争時(1937〜45年)、日本に強制連行された中国人男性、日本軍に性的暴力を受けた女性たち——虜囚にされた人びとは、その後の人生を抑圧と障害を背負い続けて生きて来ている。著者は中国・台湾を訪ね、老いた被害者から体験を丹念に聞き取り、記録としてまとめた。歴史の証人の言葉を伝え、戦争の罪責を訴えかける貴重なドキュメント。
「90年代末から2000年代初めにかけて、中国人強制連行と従軍慰安婦の裁判判決が続き、遠い過去の出来事とか、サンフランシスコ講和条約で解決済みとか、1972年の日中共同声明で戦争被害の請求権はなくなっているとかの理由によって、被害者原告の訴えを斥けていくのを見て、何かしなければならないと焦るようになった。戦争被害者は過去の犯罪について訴えている以上に、今なお苦しんでいるのである」(「あとがき」より)
本書は、元日本兵の体験の聞き取りと分析を行った『戦争と罪責』(岩波書店1998)と対をなす。今回は被害者である中国民衆の体験を語り伝える。

目次

はじめに
I
第1章 中原からさらわれた少年
第2章 無視と黙秘の悪循環
第3章 文明誕生の地から、鬼ヶ島へ
第4章 人倫としての花岡蜂起
第5章 老工之歌
第6章 田植歌の上手な少年兵
第7章 再燃する精神的外傷
第8章 継承される強制労働の文化
II
第9章 死の恐怖をともなう性暴力
第10章 破局的体験後の社会の対応
第11章 山西省太原での日本軍の性暴力
第12章 慰安婦にされた植民地女性
あとがき
文献
索引

書評情報

宮田光雄(東北大学名誉教授)
熊本日日新聞2009年7月12日
池谷薫(映画監督、立教大特任教授)
北海道新聞2009年8月9日(日)
著者インタヴュー
東京新聞2009年10月3日(土)

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