みすず書房

「改めてこの本のタイトルを眺め、その内客を確認していると、英文学の研究を専門としている者の作る本としては少し異例なものであるような気がしてくる……この本に収録した論文とエッセイをつないでいるのはヴィクトリア時代の文化、人種間題、ダーウィニズム、批評の方法論、歴史(学)といった線。それらはあまりにも雑然としていて、相互のつながりが見えにくいかもしれないが、私の雑学的言説の中では強烈につながっている。できあがったのは一種の自伝的なエッセイ集とでも言えばいいのだろうか」(あとかき)。
 なぜ彼女たちは食事をとらないのか? ルイス・キャロルはどうして動物の生体解剖にあれほど強く反対したのか? アイルランド人と黒人はどう関わるのか? 英国においてホッテントットのヴィーナスはどうしたか? アメリカの現代思想と語学力の関係は? 批評家ソンタグはその敬愛するバルトとどこが、どう違うのか? 他にも、ヴァージニア・ウルフの歴史感覚、エーコ『薔薇の名前』の精妙な分析、セリーヌとユダヤ人問題、アクーニンの推理小説の魅力など、刺戟的な論考=エッセイを集成。アカデミックな第一級の成果と発見の悦びに満ちた知的エッセイの稀有の融合。

目次

I さまざまの歴史
1 歴史学の後ろ姿
2 帝国と路地裏のはざまに
3 1857年、議会のポルノ論争
4 不潔、清潔
5 食べない女たち——拒食症の歴史
6 動物の生体解剖——ルイス・キャロルの事例
7 推理小説、19世紀に向かう
8 第一次大戦と小説——ウルフ、フォークナー、パット・バーカー
9 モダニズムの閉幕——ヴァージニア・ウルフの歴史感覚
10 ポストモダンの歴史小説——『薔薇の名前』論

II 人種の表象
1 おサルの系譜学——人種と挿絵
2 ホッテントットのヴィーナス——挿絵と小説
3 屋根裏の黒い女、荒野の黒い男——『ジェイン・エア』と『嵐ヶ丘』
4 人種はどこにつながるか——フォークナー論
5 セリーヌ問題——ユダヤ人問題とモダニズム文学

III ダーウィンの負の周辺
1 ビーグル号の野蛮人
2 ダーウィンと女性
3 エコロジーを発明した男、エルンスト・ヘッケル
4 労働のネットワーク——社会ダーウィン主義からフリーターまで
5 フクヤマ、誰?——ネオ・リベラリズムの終焉

IV スーザン・ソンタグの周辺
1 批評のこれまで、これから
2 アメリカの現代思想と語学力
3 パロディ変幻——ニーチェと現代批評
4 批評家ソンタグ
5 ソンタグ、歴史に向かう
6 希有の作家
7 サイードと新しい歴史学

あとがき
初出一覧

書評情報

原英一(英文学者)
図書新聞2010年2月6日(土)
出版ニュース
2010年2月下旬号

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