みすず書房

イトコたちの共和国

地中海社会の親族関係と女性の抑圧

LE HALEM ET LES COUSINS

判型 四六判
頁数 296頁
定価 4,400円 (本体:4,000円)
ISBN 978-4-622-07649-0
Cコード C1010
発行日 2012年3月22日
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イトコたちの共和国

女性抑圧の象徴として激しい論争を呼び起こすヴェール問題。そうした女性隔離の規則が、イスラームの教義ゆえではなく、地中海社会の親族関係に起因することを本書ははじめて論じ、多大な影響を与えた。
「イトコたちの共和国」と名付けられた地中海社会の特徴とは、近親婚も回避しないほどの内婚制への志向である。外婚制で共同体を維持する「義兄弟たちの共和国」、血縁関係を問わない「市民たちの共和国」と対比されるこの第三の社会が、女性の条件の鍵を握る。都市化とヴェール、親族による女性の殺害、兄の特異な地位、社会変化と女性隔離の関係など、先史時代から現代につづく「イトコたちの共和国」の秘密が、壮大なスケールで紐解かれていく。
著者ティヨンはフランスを代表する民族学者。モースに学び、第二次世界大戦中にレジスタンス活動に参加、強制収容所に送還される。母は強制収容所で殺され、博士論文はゲシュタポに没収された。だが解放後はマグリブを中心に精力的に調査を再開、アルジェリアの和平に貢献し、民族学者として偉大な仕事を成し遂げた。100歳で亡くなった後も尊敬を集めつづける民族学者、「世紀の女性」の主著である。

目次

民族学について 第四版への前書き

第一章 地中海沿岸の高貴な住民たち
市民たちと義兄弟たち/ホラティウスとアンティゴネーの間で/ハレムの社会分析/民族誌学という名の異国研究の社会学/解明のための枠組み/人類の半分の隠蔽/慢性化した矛盾/五つの一致/旧世界

第二章 義兄弟たちの共和国からイトコたちの共和国へ
近親相姦を禁止しない地帯/政治的議論の一〇〇万年間/政治的混血と知的人類の出現/旧石器時代の政治的年代/尖った膝の上で育った幼少期の「文明」/オーリニャック文化期の狩人の女性たちはケベックのノルマン人女性たちよりも頑丈ではなかったのだろうか/一〇〇平方キロに暮らす旧石器時代人の家族/人類、親族構造、出生率の二類型/新石器時代の「状況」は、人類のもっとも原始的な様相を再生産する

第三章 身内で生きる
近親相姦と高貴さ/交換の禁止/エジプトの王たち/イスラエルの族長たち/インド・ヨーロッパ語族の王侯/家族のすべての娘を家族の息子にとっておく/自分の家畜の群れの肉を食べるのは、父方の娘を娶ること
 
第四章 バター時代のマグリブ
はじめは継続だった/スープの文明/マグリブの最初の民族誌学者/預言者誕生の千年前から彼らは割礼を実施していた/エジプトの西方にあるほとんど未知の土地/女性の服装、工場製の見本/頭のない男と犬頭の男/空の甲殻の巨大な堆積/持続的探査と廃る根/不確かな嫉妬

第五章 「ああお兄さま、私たちの婚礼の祭りの日が来ました」
兄弟間の分配/旦那さま、お兄さま/「泣かないでシャプロンよ、卵入りの鯉を買ってあげるから」/「姉妹の名誉」/嫉妬の製造/女たちは畑と同じように財産の一部である/われわれの息子がよそ者を娶る/諸革命は過ぎていくが、義母は生き残る/「ああお兄さま、私たちの婚礼の祭りの日が来ました! 私がかくも望んでいた日が来ました」/「イトコ—兄」は「イトコ−夫」である

第六章 アヴェロエスの高貴さとイブン=ハルドゥーンの高貴さ
定着民と遊牧民/ケルトの「民族」とアマジグの「支族」/不可分の名誉/「何人もその心に持つものを知らない」/二人の孤児は、母親に会いに行く/「高貴さ、名誉とは、混淆の不在の結果でしかありえない」/祖先崇拝/「町の愚かな人たちは家族の一部であり、それゆえ私たちは彼らを受け入れるのである」/黄金時代/ミルクをすべて飲まないようにという人形への助言」/遊牧民氏族

第七章 神との争い
選択的敬神/聖パウロによるヴェール/ジャンヌ・ダルクと敬虔王ロベール/私たちの聖母教会は男性形の母親である/コーラン革命/火の中に不死のまま留める/母系制と正統性 /公正証書による神への払い戻し/ヴェールの地理的分布は女性の遺産継承に相応する

第八章 ブルジョワ的スノビズム
古い諸構造破壊の七千年/歴史学と民族誌学の相違/子供を食らう都市/重い確信を抱いた成人の到来/進化の途上で/地方の有力者「シャ・ト・ディヤ」:最悪の羊も最良の羊もいない/ヴェールを纏う女性の数は小集落では増加し、都市では減少している/社会的蕁麻疹

第九章 女性とヴェール
最後の「植民地」/「頭巾やスカーフ(女性が髪につけているもの)を脱がせるものは、しかるべき罰を受ける」/地中海のムスリム沿岸について/マグリブの向うの旧世界/見えない女性たちの影響

訳注
訳者解説

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