みすず書房

精神医学を再考する

疾患カテゴリーから個人的経験へ

RETHINKING PSYCHIATRY

判型 四六判
頁数 424頁
定価 4,620円 (本体:4,200円)
ISBN 978-4-622-07667-4
Cコード C1011
発行日 2012年1月20日
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精神医学を再考する

「未来のいつの日か、グローバルな精神医学に文化革命が生じるであろう。それはこの分野を組み立て直し、その拠り所と責務を評価し直すような革命である。……私が読者に想像するように誘い、もしかしたら読者がその創造に手を貸すことになるのは、そのような未来なのである。」
(日本語版への序文より)
本書は医療人類学分野を代表する頭脳であるクラインマンが長年の研究の精髄を示した、現代の古典である。
各章は、精神医学の現状に向けて提起された命題のそれぞれを考察している。曰く、「精神医学的診断とはなんだろうか?」「社会的関係と文化的意味は、精神疾患の発症と経過に影響を与えるか?」「精神科医はどのように癒すのか?」等々。
こうした学問分野の根幹を、学問の枠組み内で評価する循環論法的とも言うべき思考への自省と批判が、本書の底流にある。著者は非西欧の精神医療に関するデータの地道な収集によって現代精神医学に内在する不可視のドグマをあぶりだし、その知見を臨床で実践することを使命としてきた。本書では、基本命題への練り上げられた回答を自ら示すという形で、研究の成果を凝縮して読者に伝えようとしている。
「精神科医を含む多くの臨床家は、いかなるルートをたどろうとも、その臨床家の生涯の途中でこの「文化的な知識」が圧倒的にものをいう地点(難所)を通ることになるのだと思う。それを強く自覚するかどうかが、その後の各人の登攀ルートの分かれ道になるのではないか……今日、生物学的精神医学が全盛の時に、最も必要となるのがこうした視点なのである。」
(「訳者あとがき」より)

目次

日本語版『精神医学を再考する』への序文
序文

プロローグ なぜ人類学なのか

第一章 精神医学的診断とはなんだろうか?
精神科医にとって精神医学的診断をおこなうことの意味/カテゴリー錯誤

第二章 精神医学的障害は異なる文化で異なったものとなるか?──方法論的考察
精神医学における比較文化的研究を解剖する/疾病の生物学的側面を強調し、病いの文化的側面を軽視する、精神医学における暗黙のモデルとはなんだろうか?/異なる文化における精神疾患の研究に、翻訳はいかに影響を与えているのか?

第三章 精神医学的障害は異なる文化で異なったものとなるか?──調査結果
疫学/症候学/病いの行動/経過と予後/病いについての信念/心理生理学的な経験

第四章 社会的関係と文化的意味は、精神疾患の発症と経過に影響を与えるか?
政治経済学と精神疾患/精神疾患に対する社会変化とそれ以外の社会的諸影響/予防と人間の苦難/ストレス・モデル/文化的意味/予防に立ちはだかる文化および専門職の障壁

第五章 専門家の価値観は精神科医の仕事にどのように影響を与えるのか?
臨床面接/精神科記録における記述──専門家による症例の再構成/患者の日記/専門家の言説/臨床作業において専門家の規範が果たす役割/中国における精神医学──臨床家、専門性、および国家/結び──精神医学の社会的および専門的な濫用

第六章 精神科医はどのように癒すのか?
ある地域に固有の癒しのシステムとしての精神療法を評価するための比較文化的な枠組み/精神療法やその他の形態の象徴的治療は、どのように癒すのか?/ヘルスケアと医療の核心部分のパラドクス

第七章 精神医学は社会科学に対してどのような関係をもつべきか?
社会科学と医学との関係のモデル〈人類学のデータベースを利用する・人類学的方法を臨床場面で応用する・精神医療の教育と臨床における人類学的概念と視点の位置〉/精神医学のさまざまな文脈と、さまざまなレベルで人類学を教えるためのプログラム〈初心者レベル・中級者レベル・上級者レベル・特別な状況〉/臨床実践をおこなう精神科医のための人類学

エピローグ

訳者あとがき
参考文献
索引

書評情報

兼本浩祐
図書新聞2012年4月7日(土)
野口正行
こころと文化2012年9月号(第11巻2号)

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