みすず書房

ヘテロトピア。文化の内側にあって他の場所を表象すると同時に異議申し立てを行い、ときには転倒させてしまう「異他なる反場所」。どの文化にも安住せず、それぞれの文化がかかえる矛盾を映し出す〈鏡〉の役割をはたす。たとえばサイードのような境界知識人がそこにいる。
本書は、自らの立ち位置を「ヘテロトピア」に定めて言論状況への批判的介入をめざす著者がおくる「通信」である。
沖縄闘争に身を投じた者たちは島的共同体をどう担ったか。グローバリズムの波を受ける「地域研究」の現場で、スピヴァクは欧米モデルをどのように打破しようとするのか。批判的懐疑を失くすとき、ネグリのマルチチュードが生む絶対民主主義は全体主義に転化するのではないか。非当事者であることの特権とは何か。
思想史家として対象を何十年でも見続けようとする視線が「今」をとらえる。
「権力という巨象にまとわりつく虻のような存在でありたい。」死語ではない知識人に、本書で出会うだろう。

目次

I
1 批評の立ち位置について
2 サイードの「財産目録」
3 「転回」前夜
4 トランス・フィジック
5 雑種文化論
6 死に至る共同体
7 共生共死
8 ホワイトのトロポロジー
9 形態学と構造分析
10 プラトンかカントか
11 当事者性の獲得?
12 《あいだ》にとどまる
13 柳田国男以後
14 彼は「旅人」であったか
15 あるリアクション
16 遅ればせの回答
17 奇縁
18 弱い思考
19 バロックとポストモダン
20 節合
21 追悼・多木浩二
22 夢みるカント
23 土着化の陥穽
24 批判的地域主義
25 半チョッパリの悲哀
26 水の透視画法
27 歴史の当事者性
28 社会運動史研究会
29 エティックとイーミック
30 パヴェーゼの場合

II
世界システムの変容と「地域研究」の再定義
「批判的地域主義」への定位
「民族責任」と対峙するために
金嬉老のまるはだかのおしり
印象的な「死に至る共同体」をめぐる考察

III
トロボロジーと歴史学——ホワイト=ギンズブルグ論争を振り返る
よくぞここまで——「歴史家と母たち」追想
ずれを読み解く——ギンズブルグの方法について

IV
『野生のアノマリー』考
自信満々の未来派左翼
「絶対的民主主義」社会への展望——姜尚中との対話
イタリアにおける「反転する実践」の系譜——アントニオ・ネグリ『戦略の工場』読解のための一資料

V
「破船」後の歴史学の行方
サイード版「晩年のスタイル」
失望と得心
インターネットと「一万年図書館」
総力的一致の大合作
全体主義をめぐる論争の「概念史」のこころみ
若い世代に語り継ぐ
「赤い出版人」ジャンジャコモ・フェルトリネッリの生涯
待望のロドウィック著作集
アガンベンへの現在望みうる最良の手引き
学問の危機からの脱出のための一指針

ビブリオグラフィティ 2007-2011

あとがき

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