みすず書房

「植物はつくりこまれた庭から逃れて、ただ花を咲かせるのに適した地面だけを待ち望んでいる。あとは風が、動物が、機械が、種子をできる限り遠くへと運んでいく。
自然はこうして、とりなしてくれるすべての媒介者を利用する。そしてこの組み合わせのゲームのなかで、人間という媒介者は最良の切り札なのだ。それなのに人間はそのことを知らずにいる。新しい庭は人間なしでつくられるのか?」(本文より)

できるだけあわせて、なるべく逆らわない——これが現代造園の世界に新たな一ページを開いた庭師、ジル・クレマンの哲学である。
荒れ地での植物のふるまいをモデルとし、土地を土地のダイナミズムにゆだねつつ、植物を知悉する庭師の手によって多彩で豊かな進化をうながすプロジェクト、それが「動いている庭」だ。
クレマンは自邸である「谷の庭」で実験と観察を重ねながら、種の多様性、さまざまなエネルギーの混在、美が展開する庭づくりの技術と管理方法を見いだしてゆく。
クレマンにとって、庭は人が驚きと出会う空間、庭の仕事は夢の光景を創り出す営みだ。だからここに収められた文章と写真は、夢を見るために試行錯誤をくりかえす庭師の、思索と実践の記録でもあるだろう。
本書は、庭づくりの手引きを越えた、自然と人間の関係をめぐる智恵の宝庫である。クレマンの思想は、生命のゆらぎのなかに生きるわたしたちに多くの示唆をもたらすだろう。




目次

序 (PDF、1.2MB)
I 秩序
II エントロピーとノスタルジー
III 奪還
IV 荒れ地
V 極相
VI 動いている庭
VII 実験
VIII ずれ
IX 放浪
X アンドレ・シトロエン公園の七つの庭
  アンドレ・シトロエン公園の七つの庭の植物
    動いている庭にまいた種子のリスト
    連なりの庭の植物リスト
XI 新たな動いている庭
  1 ローザンヌのフィセル
  2 レイヨルの園
  3 リヨン市
  4 シャンブレ
  5 ブルジュのレゼネ採石場
XII 動いている庭と共通点をもつ庭
  1 ロシュ=ジャギュ
  2 トレデュデ
  3 モンジャック
  4 その他
XIII 野原
    野原にまいた種子のリストおよび経年変化
XIV サン=テルブランのジュル・リフェル農業高等学校
結論——動いている庭についての
XV 動いている庭から惑星という庭へ
  1 評価
  2 整備
  3 教育
  4 リサーチ
続きを待ちながら

補遺
  1 アラン・ロジェ「動いている庭から惑星という庭へ」   
  2 惑星という庭・自然・農業   

訳者あとがき
文献
植物リスト


* カラーページのサンプル(PDF、1.3MB)

田瀬理夫氏(造園家/プランタゴ代表)より、推薦のことば

 
雑草の種子が風や鳥、虫たちによって伝播して、思わぬ処に芽を出し、やがて風景を変貌させることがある。土地の様相は自然の営みや人間の働きかけによって、人々の喜び、驚き、憧れ、悲しみ、時には怖れなどを織り込むものとなるだろう。
ジル・クレマンは、「建物が建てられていない部分は、生物に満たされ、動きがある。それが庭の実質である」として、いかなる形にも定められない存在としての庭を夢み、「動いている庭」を見出した。それは「自然のなかに自分の存在の重要な一部分を再発見しようと求めている人々の、暗黙の要求に応えるもの」であり、変化の動きは庭の構想をたえず覆す。その過程で、庭師とその仲間たちが発見を積み重ねてきた「庭の技術、つまり風景をつくる技術と、それを維持する技術は、これから逃れようもなくやってくる多様性の衰退を未然に防ぐことができる」にちがいない。
そして「動いている庭」はどんな政治的プロジェクトに結びついていくだろう? 私たちはその土地土地の日常で「人と自然の関係の現実」という「庭」の中で、どうふるまっていくだろう?

(田瀬理夫氏よりお寄せいただいた推薦のことばは、本書の帯に掲載しています)

書評情報

青木淳(建築家)
読売新聞2015年4月19日(日)
産経新聞
2015年4月26日(日)
ランドスケープデザイン
No. 104(2015年8月)
本田貴久
ふらんす2015年5月号
武田徹(評論家・恵泉女学園大学教授)
朝日新聞「今年の3点」2015年12月27日(日)
田瀬理夫(造園家)
LANDSCAPE DESIGN2015年6月