みすず書房

1974年、ポーランドのクラクフに留学した著者がポーランド人に示していた他者性とは「西側世界から来た東方の人間」というものだった。その時代に始められた議論と対話は、その後もずっと続いている。大学でも「ポーランド人の自画像、他画像」「ポーランド防壁論」「ポーランドを巡る言説」といったテーマの講義を続けてきた。日本におけるポーランド文化研究の第一人者にして、詩を始めとする古今の文学作品、ショパンの書簡集などのすぐれた翻訳者による学術エッセイ集が本書である。
音楽と詩や文学の同時代性を見定めるショパン論、アヴァンギャルドの宿命とナチス占領下の20世紀ポーランド美術、特異なまでに〈民族〉を語り続ける文学、中世に遡る〈防壁〉としてのポーランド観、近代ポーランド語のテクストが形成する「空中領土」としての〈クレスィ〉、マリノフスキーの人類学、法王ヨハネ・パウロ二世(カロル・ヴォイティワ)の若き日の詩、古都クラクフの闇から生まれたカントルの演劇やキェシロフスキの映画、ポーランド人によって百年前に書かれた日本論……。あれこれの機会と媒体に応じて執筆された文章群を本書で通覧すれば、ヨーロッパとアジアの間に位置するポーランドの複雑な文化の奥深くに触れることになるだろう。

目次

ポーランドと他者
ショパンの新しい言葉
バラードの変容、あるいはショパンの実験
シマノフスキのショパン
シマノフスキに出会う道
前衛という宿命、あるいは20世紀ポーランド美術——コブロとスツシェミンスキ
ポーランド語文学を語り続ける〈民族〉
ポーランド《防壁論》のレトリック——一543年まで
ポーランド《防壁論》のレトリック——ルネッサンス後期
ヴォウォディヨフスキ殿とカミュニェツへ——シェンキェーヴィチの『トリロギア』再読
ブロニスラフ・マリノフスキーの日記をめぐって
マリノフスキーの出発
若き日のヨハネ・パウロ2世と十字架の聖ヨハネ
クラクフ——月の都あるいはネクロポリア
カントルのクラクフ
カントルのマネキン
ボレスワフ・プルスの日本論
ポーランド語のヤン・コット
キェシロフスキのポーランド
あとがき

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