みすず書房

「『アラブの春』や『ウォール街占拠運動』で共通に見られるのは『自分たちは見捨てられている』という強烈な自覚だろう。[…]彼らが主張するのは、見捨てるな、ではない。自分たちを見捨てるようなシステム自体に対する激しい忌避である。[…]新しさは、国家やお上に自分たちを何とかしてくれ、と要求する従来の『陳情』型の抗議運動ではなく、自分たちを見捨てた者たちが独占するものに対して、それを奪還しようという運動だというところである」。

「30年前に起きたことと、10年前に起きたことと、今起きていることは、見た目が似ているかもしれないけれども、そこには大きな政治的変化がある。[…]結果が同じであれば一緒ではないか、と言われるかもしれない。しかし途中に変化しているということは、再び同じ暴力に戻らずにすむ別の道があったはずだ、ということである。途中の変化を見落とすこと、それを重要と思わないことは、解決の可能性を最初から捨てていることに他ならない」。

アラブの春からパリ同時多発テロ事件まで、中東研究の第一人者が東日本大震災の1年後につづり始めた時評集。中東にとっても日本にとっても、一つの転機だったかもしれないこの4年間を問い直すことで、メディアの報道や解説書からは見えないことが、見えてくる。

目次

少し長いまえがき
1 「アラブの春」と「ウォール街」と「3・11」をつなぐもの  東日本大震災から一年(2012. 3)
2 「私の名前を憶えてほしい」  イラク戦争開戦九周年(2012. 5)
3 ヨーロッパという呪縛  ギリシャ財政破綻とEU(2012. 7)
4 「宗教は放っておけ」と元大臣は言った  地域研究ができること(2012. 9)
5 土地を守ること、人を守ること  領域国家を相対化する(2012. 11)
6 マリ—リビア—アルジェリア—アフガニスタン  終わらない「対テロ戦争」(2013. 3)
7 十年ののち  アルジェリア人質事件(2013. 5)
8 砂漠で待つバラと、片思いの行方  日本の対中東外交の変遷(2013. 7)
9 アラブ知識人の自負と闇  エジプト、ムルスィー政権転覆(2013. 9)
10 「逃げろ、でなければ声をあげろ」  国境の理不尽を越える試み(2013. 11)
11 「内なる敵」を炙りだす  宗派対立と中東化する日本(2014. 3)
12 アメリカ、この厄介な同盟相手  反米と対米依存と民族の尊厳(2014. 7)
13 人々の度し難い怒りと、理想の国を作るということ  「イスラーム国」の登場(2014. 9)
14 私の「正義」とあなたの「正義」を入れ替える  プロパガンダの死角(2014. 12)
15 政府はベタおりし続けなければならない  仏シャルリー・エブド襲撃事件(2015. 3)
16 悲しいことたち  人質殺害事件に見る日本の病理(2015. 4)
17 若者は「砂漠」を目指す  中東に惹かれる西洋(2015. 7)
ポスト・スクリプト——パリ同時多発テロ事件

書評情報

日本経済新聞
2016年1月31日(日)
社説(引用)
信濃毎日新聞2016年1月10日
山本武彦(早稲田大学名誉教授)
公明新聞2016年2月22日
常岡浩介(ジャーナリスト)
信濃毎日新聞2016年2月28日

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