みすず書房

アリストテレスはクモやサソリまで昆虫に入れていたし、18世紀フランスの博物学者レオミュールはワニまで昆虫に分類することを提案していた。また、人間に比してはるかに小型なその存在は、スケール効果にかんする議論のきっかけとなった。ハチやアリの巣に君臨しているのは王か女王かも、さんざん論じられた謎だった。昆虫学者の文体はプルーストのような作家にも影響をあたえ、社会生活をする昆虫は、共和制、王制、奴隷制度、労働といった人間社会の制度をめぐる議論とかさねられた。
本書は「法の哲学」「芸術の哲学」「科学の哲学」「自然の哲学」などと同じ意味で「昆虫の哲学」だ、と序文にある。古代から現代まで、昆虫をめぐって人間が考えてきたことを、ダーウィン、ファーブルはもちろん、多角的にふりかえり、生物多様性、ユクスキュルの環境世界論、デリダの動物論にまで言い及ぶ、刺激的な科学エッセー。

目次

序文

第一章 微小の巨人
大きさ——平凡な概念の複雑さ
尺度(スケール)の変化
絶対的大きさという概念

第二章 コガネムシへの限りない愛
分類の基本
奇怪なワニ
境界線の問題
自然分類法
ダーウィンと変異する子孫
方法論の革命
まだ存在しなかったとき、昆虫は何であったのか?

第三章 昆虫学者の視線
作家と昆虫学者
活劇物語
風俗劇
ラ・フォンテーヌの寓話
昆虫の仕事
昆虫学者の文体
昆虫学者に向けられる視線

第四章 昆虫の政治
王それとも女王?
アマゾネスと顕微鏡
競合するパラダイム
共和制か君主制か
昆虫のあいだの不平等について
戦争と奴隷制
進化と社会
動物の社会?

第五章 個体の本能と集団的知能
クモとクモの巣
ミツバチと巣房
神の意図か、自然選択か
個体と超個体

第六章 戦いと同盟
蜂蜜、蜜蝋、絹
害虫と病原体の媒介動物
敵の敵
受粉——自然の秘密

第七章 標本昆虫
擬態
カムフラージュ
ショウジョウバエと遺伝学
社会生物学

第八章 世界と環境
ボディープラン
散歩者、イヌ、マダニ
現象学と動物学
動物行動学と動物の倫理

謝辞

訳者あとがき

参照文献
人名索引

書評情報

円城塔(作家)
朝日新聞2016年7月3日(日)
荒俣宏(博物学者)
信濃毎日新聞2016年7月3日(日)
荒俣宏(博物学者)
山陽新聞2016年7月3日(日)
荒俣宏(博物学者)
共同通信配信2016年7月3日〜
納富信留(ギリシァ哲学研究者・東京大学教授)
読売新聞2016年7月31日
養老孟司(解剖学者)
毎日新聞「鼎談 昆虫の話」2016年7月31日(日)