みすず書房

夜空を見上げ、星を見る喜びを知り得た人は、それだけで生きる甲斐がある。そう教えてくれたのが「天文屋」石田五郎。戦時下の灯火管制で、江戸の闇を取り戻した東京の星空に見ほれ、星を見つめ続ける男になった。昭和期における天体観測のメッカ、岡山天体物理観測所の副所長として、夜空にはりつき、何億光年彼方の小さな輝きを追い求めたのである。古今の詩歌を口に転がし、地上に下りれば、歌舞伎、能狂言を嗜む教養人でもあった。理系と文系のこのうえない絶妙な結合が、珠玉の随筆集『天文屋渡世』のあちこちに確かめられる。今夜も見上げれば石田が求めた星が光り、手に『天文屋渡世』がある。われわれは幸せである。——岡崎武志

目次

天の章
星空の歳時記  
 星空へのいざない  
 南極老人星カノープス  
 人の住む星  
 寒星の句  
 大犬と小犬  
 春めきて  
 黄道光の季節  
 五月の星  アークトゥルス  
 つゆぞらの星  コマ・ベレニケ  
 大火アンタレス  
 秋風の立ちにし日より  
 マンダラの星  
 嘆きの星  フォーマルハウト  
 星はすばる  
 凩の夜の対話  冬の星によせて  
 冬空の覇者  オリオン  
 再び、南極老人星  
 レチクル座
星座についてのリマーク
天体写真の上下・うらおもて
七夕と天の川  
 古典の中の天の川  
 天の川の美しさ  
 「天の川」風物詩
ハレー彗星、ええじゃないか
去りゆくハレー彗星
流星の美学
隕石と天変
三日月と有明月
八丈島日食のこと

地の章
山で見る星
 アルプス星夜  
 地図のさかい目  
 那須、沼ッ原  
 こけしのふるさと
岡山ぐらし
 トビのはなし  
 山火事のこと  
 車中にて  
 掲示板  
 山ほととぎす  
 ひぐらし  
 ビンツケギリ  
 竜王山  
 コロのはなし  
 モズのなげき  
 ボッコウ  
 短冊形の星空  
 十年ひとむかし
 星空はみなのもの  
 ライブラリイを創る  
 ひとつの時代
寺と星と
 寺と茶碗と星と  
 西国三十三か所
外国の天文台
 ワシントンの秋  
 マーリン・クレブス氏のこと  
 リック天文台  
 ウグイス——ケコリ  
 ソウルの恋人  
 ジャワの天文台  
 ゲルハナ・マタハリ

人の章
亡き人のこと
 「マチス嬢」の絵  
 岳父福森白洋の写真の世界(ブロムオイルの技法)  
 風立ちぬ  
 亡き友
泡影をめぐって
 野尻泡影『星座神話』  一冊の本  
 プラネタリウム  
 泡影先生のはがき  聖人窟のことなど
みる・きくの楽しみ
 フィッシャー・ディスカウ  
 観客であること  
 子午線の美学  天体がドラマに参加するとき  
 生涯一観客  
 「忠臣蔵」の美学  
 歌舞伎の中の天文学  月齢の美学  
 六月二十九日の夜  
 歌舞伎と星  十二代市川団十郎  
 時そば
星と健康
 早起きは五ターレルの損  
 睡と眠と  
 天文屋渡世

ことわりがき

書評情報

大窪広美(山梨県立図書館司書)
山梨日日新聞2014年5月25日
白石明彦
朝日新聞2012年5月6日
池内紀
毎日新聞2011年2月27日(日)
信濃毎日新聞
2011年2月13日(日)

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