みすず書房

プロメテウスの火

始まりの本

判型 四六変型
頁数 280頁
定価 3,300円 (本体:3,000円)
ISBN 978-4-622-08354-2
Cコード C1342
発行日 2012年6月22日
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プロメテウスの火

朝永振一郎は原子核物理学の傑出したリーダーの一人であり、また、ノーベル賞受賞者として戦後の基礎科学研究振興のキーマンでもあった。本書では、朝永がそうした立場から科学の「原罪」という認識を説いた8編、および、原子力開発史の貴重な資料でもある座談3編、計11編を、特に3.11後に読み返すねらいで精選した。

第I部には、原子力の提起する問題を中心に、朝永が科学と現代社会の関係の異常性を真率に論じた随筆・講演録を収めた。第II部には、核廃絶を求める声明やパグウォッシュ会議に関する論説を収録。
これらは、20世紀を代表する物理学者が絶えざる省察によって到達した科学論・科学者論であると同時に、科学が原子力というパンドラの箱を開けた時代の苦悩の証言でもある。

第III部の座談3編は、原子力開発の最初の岐路に立った50年代の科学者らの姿を映し出す貴重な実録である。3.11の震災後に噴き出した、日本の原発産業が抱える根本矛盾のすべては、原子力開発史が最初の一歩を踏みだす前から指摘されていた。
当時の科学者の甘さや非力を今日の視点であげつらうのはたやすいが、彼らの動きをあらためて振り返り、一方で3.11震災に対して現役の科学者がいかに為す術を持たなかったか、その後もいかに端役であり続けているかを顧みるとき、この国のブレーンとしての科学界の主体性や機動力は、むしろ当時よりはるかに後退しているとも映る。本書のなかでも最も焦眉の課題をわれわれに提示している部分かもしれない。

目次

I プロメテウスの火
暗い日の感想[1954]
  夢と物理/研究と責任/研究の方法/原子力時代/水爆実験/研究費/オッペンハイマー
人類と科学——畏怖と欲求の歴史[1972]
  第三の考えが必要/古代の歴史からさぐる/人間特有の動機/根拠のない楽観主義/科学の限界/むすび
物質科学にひそむ原罪[1976]
  はじめに/科学は善か悪か/科学の方法と実験/科学と応用/人間のために自然を変える/神話の中の予言/科学とはプロメテウスの火
科学と現代社会——問題提起[1975]
  討議における発言

II 原子力と科学者
科学と技術がもたらしたもの——原子力の発見[1969]
  偶然と失望の所産/放射能の発見/見えない世界の探検法/放射線の身元を洗う/ラザフォードの考え/原子の内陣へ/どんな粒子があるのか/中性子の発見/放射性同位元素/原子力利用の可能性/二つに割れたウラン核/原子力時代と科学者の良心
新たなモラルの創造に向けて——科学と人類[1975]
パグウォッシュ会議の歴史[1962]
 一 パグウォッシュ会議の門出と成長
 二 パグウォッシュ運動の新しい段階
核抑止を超えて(湯川・朝永宣言)[1975]

III 科学技術と国策
座談会 日本の原子力研究をどう進めるか[1954]
  今までのいきさつ/日本の原子力研究は何から発足するか/日本のウラン資源/重水生産と原子炉の設計/その他の原子炉に関する技術/アメリカの原子力政策/検討委員会の設立/原子力憲章
座談会 日本の原子力研究はどこまできたか[1954]
  原子力予算の経緯/アメリカ原子力法の改正/これからの進み方
座談会 科学技術振興と科学の役割[1959]
  プロジェクトと基礎科学/プロジェクトの実施をめぐって/基礎科学の意味/基礎研究と開発の問題/軍事研究と大学の自由/国民の福祉と科学

解説——背景おぼえ書き (江沢洋)
関連年譜
典拠一覧

書評情報

海部宣男
毎日新聞2012年7月15日(日)
沢田昭二(名古屋大学名誉教授)
しんぶん赤旗2012年9月9日
The Ginza Times
2012年10月1日(日)
毎日新聞 2012年「この3冊」
2012年12月9日(日)
The Ginza Times
2012年10月1日(月)
上條隆志
数学セミナー2013年3月号