みすず書房

フッサール『形式論理学と超越論的論理学』

立松弘孝訳

2015.01.26

本書『形式論理学と超越論的論理学』(1928年発表)は中期フッサールの代表作である。1891年に『算術の哲学』でデビューし(これについてはジャック・デリダ『フッサール哲学における発生の問題』みすず書房、で詳しく論じられている)、1900年と翌年に刊行した『論理学研究』第1巻と第2巻は、フロイト『夢判断』ともども、20世紀とともに生まれ、20世紀の学問・思想を方向づける書となり(『論理学研究』第2巻に触発されてデリダは『声と現象』を書きあげた)、1910年代には「現代哲学の原点」といわれる『イデーン』を、晩年の1930年代には『デカルト的省察』および、「ヨーロッパ的学問の危機」を中心に近代の認識論批判と当時の時代状況の中で現象学の在り方を訴えた『諸学の危機と超越論的現象学』を書きあげ、1938年に世を去ったフッサールの学問的歩みと本書の意義については、膨大な未刊の論文ともども、むろんここに書くことはできない。

ここでは、みすず書房刊のフッサール翻訳書の歴史を簡単に記す。おそらく本書がみすず書房から刊行されるフッサールの翻訳書としては最後になるからでもある。




みすず書房からのフッサールの翻訳の最初は1965年刊行の『現象学の理念』、次が1967年刊の『内的時間意識の現象学』だった。訳者はともに立松弘孝先生。そして『論理学研究』全4巻の翻訳が1968年にはじまり、1970年、74年、76年に完結する。これも立松先生による事業だった。つづけて『イデーン』全巻の刊行計画が生まれ、I と III は渡辺二郎先生の分担、II は立松先生の分担翻訳に決まり、『イデーン』 I-I、I-II は渡辺先生の翻訳でそれぞれ1979年、84年に刊行された。その後立松先生が大学内の仕事に忙殺され体調を崩され、『イデーン』 II の2冊の刊行は大幅に遅れ、II-I は2001年、II-II は2009年になってようやく刊行された。その間、渡辺先生は『イデーン』 III を少しずつ進められていたが、2008年に亡くなり、『イデーン』 III は渡辺先生の草稿をもとに千田義光先生が翻訳、2010年に刊行された。『イデーン』全5冊の邦訳には30年の年月がかかったことになる。その間、怒りもせずに待っていただいた読者の方々のご寛容には、本当に頭が下がる思いである。

『イデーン』 II-II が刊行されたとき、立松先生から『形式論理学と超越論的論理学』の翻訳の申し出があった。そして今回の刊行になった。おわかりのように、『現象学の理念』の邦訳刊行からちょうど50年がたっていた。校正段階で体調を崩されたため、本書には訳注や解説をつけることはできなかったが、短い「訳者あとがき」で先生は次のように書かれている。「フッサール現象学の理解には先ず『現象学の理念』と本書が不可欠だと思います」。出版社の人間として、立松弘孝先生の長年のお仕事に、この場を借りて心からの感謝を申し上げます。