みすず書房

新刊紹介

伊藤憲二「占領下のサイクロトロン破壊を見直す」

2023年7月25日

『励起』(全2巻)の著者の伊藤憲二先生が、小社の雑誌『みすず』にご寄稿くださいました論考「占領下のサイクロトロン破壊を見直す━━仁科芳雄と大型原子核実験装置の世界史的文脈」(2023年6月号掲載)のPDF版を公開中です。敗戦直後の日本のサイクロトロン破壊という事件から、原子力の覇権をめぐる連合国間の駆け引きや、科学分野における戦後の日米関係の趨勢までを見通す、スリリングな論考です。
『励起』第24章前半部分のダイジェスト版とも言える内容ですので、大著『励起』への足がかりとしてぜひご一読ください。

『励起』は、日本に現代的な科学研究の基盤が築かれた過程を明らかにし、それを世界史的な文脈のなかに位置づけている、傑出した科学史研究です。

一流の科学研究は圧倒的に欧米の科学者によるものとされ、「日本人に科学ができるのか」という問いすらあった時代に、自然科学研究の非西洋圏への広まりの最初の一つと言えるような競争力のある科学の拠点を、どうやって日本に築いたのか。その道のりを、原子物理学の父・仁科芳雄の足跡を軸に、破格のスケールで描いています。また、日本の原爆研究と言われる「ニ号研究」や占領下の学術界再編のように議論の多かった史実にも、説得力のある描像を与えています。原爆の日や終戦記念日をふたたび迎えるこの夏、ぜひ本書の歴史研究の成果にご注目ください。

著者の伊藤先生は、初の単著としてこの超大作を上梓した気鋭の科学史家です。国内の科学者の業績をつぶさに跡付けながらユニークな歴史研究を媒介する「科学史的伝記」は、これまで本邦においては類例に乏しく、『励起』はそのような文化を切り拓く書となるでしょう。