みすず書房

関口裕昭『翼ある夜 ツェランとキーファー』

2015.11.11

パウル・ツェランとアンゼルム・キーファー。本書はふたりの創作における知られざる緊密な関係を探究している。

それだけではなく、ふたりの間には、さらに様々な人物が関わっている。たとえば、インゲボルグ・バッハマン。卓越した詩人・小説家で、ツェランと恋愛のち友情で結ばれたバッハマンの詩を、キーファーは幾度も作品のモチーフにしている。

あるいはアーダルベルト・シュティフター。19世紀オーストリアを代表し、日本でも多くの愛読者をもつ作家の重要なモチーフが、ツェランの詩の中には隠されている。そしてキーファーはあるインタビューで「ひとつの石も生きている。そのことを私はとりわけシュティフターから学びました」と語っている。

あるいはハインリヒ・ハイネ。ユダヤの出自をもつ彼の詩を、ツェランはたびたび自作に引用しているが、一方キーファーは、ハイネにドイツとユダヤの共生を見ると語っている。

また、ツェランをはじめ、ジャベスやオースターらユダヤ系作家たちの「書物」のイメージと、キーファーの書物をテーマとした一連の作品群との共通点と相違。

出自も思想も異なるかれらの織り成す星座は何を意味しているのだろうか? 本書はその謎に分け入り、歴史と芸術表現の一筋縄ではいかない豊かさを照らし出してくれる。