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2017.03.14トピックス

訳者からひとこと 「『エコノミックス』は恐くない」

『エコノミックス――マンガで読む経済の歴史』

マイケル・グッドウィン著 ダン・E・バー画 脇山美伸訳

『エコノミックス』は恐くない

脇山美伸

「どんな本を訳してるの?」
翻訳中にそう聞かれ、「経済の本。」と言うと、友人たちはだいたい表情を固くする。
わたしの住む国、ポルトガルであろうと、イタリアであろうと、日本であろうと、それは同じだった。
「でもね、マンガなの。」
そう急いで付け加えると、「へぇ…!」と安心し、それならミノブの訳してる本が出た時に自分もページをめくってあげてもいい、という顔をする。

それほどまでに、「経済の本」というのは、恐ろしいのか!

この本を薦めてくれたイタリア人の友人は、訳者のあとがきにも書いたように、毎朝、出勤前にカフェでエスプレッソを飲みながら、30分ずつぐらい『エコノミックス』を読み続けた。もともと本好きな彼だが、詩や小説、歴史ものが好きで、学者が書いた経済の本を読むタイプではない。
何をおもしろいと思って読んでいたの? と4年前をふりかえって今聞いてみれば、「経済を、歴史を通して学べるってことに」まずは興味が湧いたと言う。「経済の本っていうと、データばっかりで、そういうのは読みたくないって思っちゃうんだ。」
でも、生きて生活している以上、誰でも経済と関わりを持たざるを得ない。だから知りたいことはいっぱいある。特に、まわりに失業者が増え、税金もあがり、自分の年金支給開始だって、いつになるのかわからないこの時代なのだから。

「マンガなら、自分みたいなモンにもわかるかなって思うじゃないか。」

とはいえ、決して全てをカンタンに噛み砕けるわけでもない経済の話を、早朝7時半の眠気さめやらぬ時間に、よく読み続けたものだ。
彼のお気に入りは、第7章「金持ちの時代」(正確には、「富裕層の反乱」)だと言う。レーガン大統領がアメリカの金持ちを優遇した80年代、「自分もまだ10代後半で、よくその時のことを覚えているから」だ。

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著者のマイケル・グッドウィン氏は2017年現在50歳だから、その友人と同世代だ。彼にとっても、レーガノミクスの時代は多感な青春時代と重なるはずだ。
80年代に始まり、90年代の湾岸戦争、2001年のNYツインタワー襲撃まで、30年間を語る第7章は、50ページあまりあってこの本の中でも一番長い。
7章を訳せば力尽きて8章が訳せなくなるぞ……と娘のペース配分能力を危ぶんだ監訳者の父は、8章を先に訳すよう私に勧めた。結果としては、中央銀行の役割、クリントン時代の経済、グローバリゼーションやWTOなどヴァラエティーに富んだ経済の話がおもしろくて、7章は快調に作業が進んだのだった。

グッドウィン氏は、全章にわたって事細かな質問にメールで答え続けてくれて、何度かスカイプでもお話をした。初めて見た時、おや、と思ったのは、本の中で彼は黒髪で小柄に描かれているから、そして略歴に中国語通訳をしたと書いてあったから、私は中国系アメリカ人だとばかり思っていたが、実際は、肩幅広くがっちりとした、アングロサクソン系のアメリカ人だったことである。
お茶目な感じを出すために、マンガでは、ナレーターとして縮小されたのか? それとも後で筋トレをしたのか? とにかく、気さくで、真摯な感じがすることに、変わりはない。

次の本をもう執筆中だとか。今度は「経済と政治」の本だという。
でもなかなか執筆だけに集中できず、『エコノミックス』を書いた時のように、本とパソコンだけを持ってどこかへ隠居するべきか……といま思案している。
彼のブログは、常に数ページのマンガでアップデートされ続け、政治経済の現状を解説し続けている。そのことからもわかるように、『エコノミックス』だけで飽き足りず、この本の最終ページのように、「終わり」と書いた後にも進み続けている。
『エコノミックス』は、彼にとっても、経済について問い続ける私たちにとっても、終わらない本なのである。

copyright WAKIYAMA Minobu 2017


マイケル・グッドウィン/ダン・E・バー画『エコノミックス――漫画で読む経済の歴史』脇山美伸訳(みすず書房)カバー

  • 『エコノミックス』第7章より
    (画像をクリックすると拡大します)


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