みすず書房

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『スピヴァク、日本で語る』

鵜飼哲監修 本橋哲也・竹村和子・新田啓子・中井亜佐子訳

卓越したデリダ読解で頭角を現わし、『サバルタンは語ることができるか』などの著作で、ポストコロニアル批評を牽引するガヤトリ・C・スピヴァク。語る/聞かれる可能性を奪われた人=「サバルタン」の位置から現代世界における知と権力の地政学に根源的な批判を投げかけ、既存の世界観を刷新し続けている。コロンビア大学で教鞭をとる一方で西ベンガルの農村で教育に携わり、知と生の両極を貫く実践を通して、近年はアクティヴィズムとしての人文学を提唱している。
2007年、スピヴァクは国際文化会館の招聘により来日し各所で講演、その類い稀なる知性と 学問への真摯な姿勢、ユーモアたっぷりの人柄で聴衆の心を揺さぶった。本書は熱気溢れる一連の講演の全記録である。

〈きわめつけは、講演が始まってから挿入された携帯電話についての注意喚起からまもなくして鳴り響いた電話音。会場中が一瞬、固唾を飲んだ。すると、なんとスピヴァク氏がバッグから電話を取り出し、「あらインドの妹からよ」とそのまま通話しはじめ、「今、沢山の人の前でしゃべっているところだと言っているのよ。あっ、これがベンガル語よ!」と。会場は一瞬、呆気にとられ、一挙に緊張がとけ、爆笑が続いたことはいうまでもない。まさにその講演ではベンガル語にも言及があり、パフォーマティヴな効果をむしろあげ、講演は大成功、大入りに加え、ことに若い人が多かったことで彼女も終始、上機嫌で、多くの若い人たちからの不躾なまでのサインの要求にも楽しげに応じておられた。
この日は「数多い講演のうちでも最も忘れがたいひとつだ」といってもらえた。後日、会った時も、「妹に電話であの講演のことを話し、ふたりでどんなに笑いころげたことか」と。〉
(坂元ひろ子「はじめに――日本で出会うスピヴァク」より、本書4-5ページ、一橋大学での講演の様子)

グローバル化による危機の只中で、スピヴァクは日本で新たな知の創出を呼びかける。日本の聴衆に向けて練り上げられ、想像力のレッスンを示す本書は、難解で知られるスピヴァクの思想をコンパクトに理解するために最適の書といえるだろう。




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