みすず書房

1656年、まだ23歳の青年であったスピノザは、ユダヤ教会から破門を宣告され、ユダヤ人社会の外へ追放された。
スピノザの破門は、哲学史上の有名なエピソードではあるが、しかし、普通これは、あくまでも一つのエピソードとして簡単に軽く扱われ、破門とスピノザ哲学との深いつながりが、問題として取り上げられることはなかった。
本書の特色は、先ず第一に、哲学史家やスピノザ研究者が単に外的な出来事に過ぎぬものとして今日まで見落して来た1656年の破門を、スピノザの人生と哲学とを決定的に左右した大事件と看做し、これをスピノザ哲学を理解し直す上での重要な鍵としたことであり、第二に、破門という鍵を実際に用いて、スピノザ哲学の形成と変化のプロセスを、三つの主要な著作——『短論文』『知性改善論』『エチカ』——に即して具体的に示したことである。
本書は思想史への新鮮な挑戦であるが、同時に現代人の思考にも一つの起爆薬のような強烈な刺戟を与えるであろう。読者は思想と経験との関連について深い反省の機会を持つことになるであろう。

目次

I 破門とスピノザ
II 開かれた円環
III 閉ざされた円環
IV 「与えられた」ものと哲学

凡例/註/後記
文献目録/人名索引