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恋愛のディスクール・断章

FRAGMENTS D’UN DISCOURS AMOUREUX


「恋するわたしは狂っている。そう言えるわたしは狂っていない。わたしは自分のイメージを二分しているのだ。自分の眼にわたしは気のふれたものと映る(わたしは自分の錯乱のなんたるかを識っている)のだが、他人の眼にはただ変っているだけと映るだろう。わたしが自分の狂気をいたって正気に物語っているからだ。わたしはたえずこの狂気を意識し、それについてのディスクールを維持しつづけている」
ロラン・バルトと恋愛、これはまことに魅力的な組み合せである。複雑微妙な恋愛の諸相を分析し、その内的宇宙を開示するのに、彼以上の適任者はいないであろう。本書は、バルト自身の体験をはじめ、友人との会話、『若きウェルテルの悩み』からニーチェ、ラカン、禅など、さまざまなテクストを自在に引用、あるいは潜ませて展開されている。不在、共苦、肉体、沈黙、夜など、バルト一流の断章形式によって十全に表現された、これら恋する者たちのディスクール=エッセーはまさに、恋愛にかんする詩的な百科全書、現代の〈恋愛論〉といってもよかろう。


目次


このような書物が……
この書物はどのように作られているか
1 フィギュール‐2 順序‐3 出典

底なしの淵に沈む…「思いの淵に呑み込まれ、圧倒され……」
1 甘美さ‐2 イゾルデー‐3 どこにもいない‐4 いつわりの死の想念‐5 底なしの淵の機能

不在…不在の人
1 不在の人とは他者である‐2 女性のディスクールか‐3 忘却‐4 溜息‐5 不在の操作‐6 欲望と必要‐7 祈願‐8 水中の顔の公案

素晴しい…「素晴しい!」
1 九月の朝のパリ‐2 全体に‐3 欲望の特殊性‐4 同語反復

肯定…手に負えぬもの
1 愛の抗議‐2 想像界の激しさとよろこび‐3 力は「解釈者」の側にない‐4 もう一度はじめよう

変質…鼻の先に
1 腐敗のあと‐2 あの人が縛られて見える‐3「壺がこわされる」‐ 4 存在の狂乱‐5 「わが小娘たちよ」

苦悩…苦悶
1 毒薬としての苦悩‐2 原初的苦悶

無力化…恋に恋する
1 二羽の鳩‐2 利害得失

苦行…苦行者のように
1 この身を罰する‐2 脅迫

アトポス…アトポス
1 分類不能なもの‐2 無邪気さ‐3 独自の関係

待機…待機
1 エルワルトゥング‐2 台本‐3 電話‐4 幻覚‐5 待つ男/女‐6 中国の高官と歌姫

隠す…黒眼鏡
1 決断‐2 二重のディスクール‐3 おのが仮面をさし示しつつ進む‐4 黒眼鏡‐5 記号の分割‐6 「激情」

所を得る…「誰もがその所を得て」
1 残酷な遊び‐2 あらゆる構造は居住可能である‐3 笑うべきもので、しかもねたましい

破局…破局
1 二種の絶望‐2 限界状況

制限する…ラエチチア
1 ガウディウムとラエチチア‐2 愛の不運

こころ…こころ
1 膨張する器官‐2 私の才気とわたしのこころ‐3 重く悲しいこころ

充足…「この世の官能のすべて」
1 過剰‐2 「至高善」を信じる

共苦…わたしはあの人の痛みを感じる
1 苦痛による結合‐2 生きよう!‐3 繊細さ

理解する…「わたしは理解したい」
1 灯火の下に‐2 映画館を出ながら‐4 抑圧‐4 解釈‐5 ヴィジョン、大いなる明るき夢

行動…「どうすればよいのか」
1 あれか/これか‐2 無益な問題‐3怠惰

共謀…共謀
1 二人してささげる賛辞‐2 余計なのは誰か‐3 オディオサマト(ライバル)

接触…「わたしの指がついうっかりと……」
1 肌への問いかけ‐2 理髪師の指のように

不測のできごと…できごと、障害、困難
1 …だから‐2 「マヤ」の黒きヴェール‐3 原因ではなく構造が‐4 偶然のできごと、ヒステリー

肉体…あの人の身体
1 分割された身体‐2 吟味する

告白…対話
1 触れる‐2 一般論を装った口説き

奉献…奉献
1 愛の贈物‐2 ビコーズ・アイ・ラヴ‐3 与えたいものについて語る‐4 ことばを捧げる‐5 書きつける‐6 与えるのではなく刻印する

悪魔…「われわれは自身にとっての悪魔」
1 自在輪で‐2 複数‐3 類似療法

服属…愛の服属
1 恋愛における服属‐2 反抗

消費…豊かさ
1 緊張の讃美‐2 イギリスの批判者に対するゲーテの奇妙な返答‐3 打算のない計算‐4 美

脱現実…仮死の世界
1 ニスの褪せた細密画‐2 普通の会話‐3 イタリアの旅‐4 権力体系‐5 ガラス戸‐6 非現実と脱現実‐7 ローザンヌ駅のビュッフェで‐8 ものごとの子供っぽい裏面

ドラマ…小説/ドラマ
1 ありえない日記‐2 すでに起こってしまった物語

生皮を剥がれた者…生皮を剥がれた者
1 痛覚点‐2 冗談に弱い

書く…言うに言われぬ愛
1 愛と創造‐2 調節‐3 エクリチュールと想像界‐4 非分割‐5 交換体系外にあるエクリチュール

彷徨…幽霊船
1 愛の消失‐2 不死鳥‐3 ある神話‐4 色合いのニュアンス

抱擁…「あなたの腕のやさしい静けさの中で」
1 眠りの中の‐2 ひとつの抱擁からもうひとつの抱擁へ‐3 充足

追放…想像界からの追放
1 自分を追放する‐2 イメージの喪‐3 悲しみ‐4 二重の喪‐5 燃え上がる炎

腹だたしさ…オレンジ
1 あつかましい隣人‐2 いらだち

フェイディング…フェイディング現象
1 薄く、薄く、なお薄く‐2 厳しい母親‐3 あの人の夜‐4 ネクイア‐5 声‐6 疲労‐7 電話‐8 放っておいてほしいのか、気にかけてほしいのか

あやまち…あやまち
1 列車‐2 あやまちとしての自制‐3 苦痛の無罪性

祝祭…「選ばれし日々」
1 祝祭‐2 生きる術

狂人…「わたしは狂っている」
1 花の狂人‐2 人目につかぬ狂人‐3 わたしは他者でない‐4 いかなる権力にも汚されず

困惑…「気づまりな様子」
1 充電された状況‐2 さめた幻惑

グラディヴァ…グラディヴァのような女
1 錯乱‐2 反・グラディヴァ‐3 再びこまやかな心遣い‐4 愛する/恋をしている

服装…青い上着と黄色のチョッキ
1 身仕度をする‐2 模倣‐3 変装

同一化…同一化
1 従僕、狂人‐2 犠牲者にして死刑執行人‐3 宝拾い‐4 投影

イメージ…イメージ
1 イメージの残酷さ‐2 裂け目‐3 悲しきイメージ‐4 芸術家としての恋人

知りがたい…知りがたき人
1 謎‐2 無知‐3 力による規定

誘導…「誰を欲すべきか教えてください」
1 情動的伝染‐2 指示としての禁止

報告者…注進する人
1 企み‐2 秘密としての外部

耐えがたい…「こんなことがつづくはずはない」
1 恋する者の辛抱強さ‐2 高揚‐3 忍耐

出口…解決策
1 閉ざされた出口‐2 悲壮な場面‐3 罠

嫉妬…嫉妬
1 ウェルテルとアルベルト‐2 切り分けられるパン‐3 嫉妬の排斥‐4 嫉妬すれば四度苦しむ

わたしは・あなたを・愛しています…愛しています
1 一語としてのJe-t-aime‐2 用法のない語‐3 発語行為‐4 お返事はありません‐5 わたしも‐6 唯一の稲妻‐7 革命‐8 悲劇的肯定としてのJe-t-aime‐9 「愛しています、わたしも」‐10 アーメン

憔悴…愛の憔悴
1 サテュロス‐2 欲望・一‐3 欲望・二‐4 憔悴

手紙…恋文
1 「わたしはあなたのことを思っています」‐2 対応と関係‐3 返事がない

多弁…多弁
1 もてあそぶ‐2 能弁‐3 練習

魔法…最後の木の葉
1 占い‐2 誓願

怪物のような…「わたしは醜悪な人間だ」
1 横暴な恋人‐2 怪物のようなもの

沈黙…答えとてなく
1 遅ればせな返答‐2 なんの益もなく語る‐3 口をきかぬ人

雲…雲
1 恥ずべきメッセージ‐2 微妙な雲、風流

夜…「そして夜が夜を照していた」
1 二つの夜‐2 ひとつの夜がもうひとつの夜を包みこむ

オブジェ…飾紐
1 換喩‐2 季語

みだらさ…恋愛のみだらさ
1 実例‐2 知的な恋人‐3 恋する者のおろかしさ‐4 時代錯誤なもの‐5 最高の不都合さ‐6 感傷性/セックス‐7 みだらさの本質

泣く…涙の讃美
1 男が涙するとき‐2 泣き方‐3 涙の機能

うわさ話…うわさ話
1 バレロンからの道すがら‐2 真実の声‐3 彼/彼女

なぜ…なぜ
1 なぜに‐2 ほんの少し愛する‐3 錯乱、「わたしは愛されている」

拉致…魂を奪われる
1 拉致、傷‐2 催眠状態‐3 決心する‐4 抑揚‐5 額縁‐6 なんらかの状況下にある‐7 事後に

故人…悲しんでもらえるだろうか
1 他人の生は続くだろう‐2 おしゃべりする

出会い…「大空のなんと青かったことか」
1 恋愛の時間‐2 出会いの回帰‐3 陶然となる

反響
反響
1 反響/うらみ‐2 恋愛の怖気‐3 塩漬け‐4 完全な聴取

目覚め…朝のしらべ
1 長く眠る‐2 目覚め方

いさかい…いさかいをする
1 歴史的にみて、いさかいとは‐2 いさかいのメカニズム‐3 果てしなきいさかい‐4無意味ないさかい‐5 最後のせりふ

ひとり…「僧はひとりも従ってなかった」
1 異端者‐2 すべての戸口が閉ざされる‐3 恋する者の孤独‐4 無意味なもの‐5 なぜにわたしはひとりなのか

記号…記号の不確かさ
1 何についての記号か‐2 常識がもたらす二つの矛盾した答え‐3 言語による保証

追憶…「星辰の輝きぬ」
1 病歴口述‐2 半過去時制

自殺…自殺への思い
1 軽率、安易、単純な‐2 自殺を語る‐3 高貴さとおろかしさ

あるがまま…あるがままに
1 属性‐2 あるがままに・一‐3 あるがままに・二‐4 愚鈍な言語‐5 星の友情

やさしさ…やさしさ
1 やさしさと願望‐2 やさしさと欲望

合体…ひとつになる
1 天国‐2 画きがたいもの‐3 役割をもたず‐4 死すべきものと可能なもの

真実…真実
1 絶対的な知‐2 真実感‐3 幻想にあって還元不能な部分‐4 七斤の重さの衣装

占有願望…飲まずして酔う
1 非・占有願望‐2 身は退くが譲らず‐3 戦術的思索か‐4 禅と老子の間‐5 飲まずして酔う

出典リスト――感謝をこめて
訳者あとがき


著訳者略歴

ロラン・バルト
Roland Barthes

1915年フランスのシェルプールに生まれ。幼年時代をスペイン国境に近いバイヨンヌに過す。パリ大学で古代ギリシア文学を学び、学生の古代劇グループを組織。 ...続きを読む »

※ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。
三好郁朗
みよし・いくお

1939年生。京都大学大学院(仏文学専攻)中退。現在、京都嵯峨芸術大学学長。訳書 クロード・レヴィ=ストロース日本講演集『構造・神話・労働』(共訳、みすず書房、1979)ほか。

※ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。

この本の関連書


「恋愛のディスクール・断章」の画像:

恋愛のディスクール・断章

「恋愛のディスクール・断章」の書籍情報:

四六判 タテ188mm×ヨコ128mm/384頁
定価 4,104円(本体3,800円)
ISBN 4-622-00482-8 C1098
1980年9月24日発行

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