みすず書房

メランコリー【改訂増補版】

MELANCHOLIE

判型 A5判
頁数 504頁
定価 8,800円 (本体:8,000円)
ISBN 978-4-622-02193-3
Cコード C3047
発行日 1985年12月5日
備考 現在品切
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メランコリー【改訂増補版】

メランコリーについての雄大な構想を、みごとにまとめあげた本書は、現代精神病理学に一つの新しい世界をあざやかに開示した。著者は1914年、ドイツのケルンに生れた精神病理学者、二度の来日によってわが国にも親しいハイデルベルク大学教授である。日本語版への序文で著者は言う。
「現代の自然科学は日を追って密度を増す技術の網の目で地球を覆いつくし、東洋と西洋の両文化の妙なる対蹠性を被い隠そうとしている。医学もそれが自然科学の一分野であるかぎり、この加速度的な単一化の流れの外にいることはできない。」精神医学とてもその例外ではない。しかし他方において精神医学には、この均等化に逆らう固有の意志のようなものがある。「人間のうちに原初から深く根を下しているこの固有のありかたのために、精神医学は間文化的な〈比較精神医学〉を必要とするに至った。」東洋と西洋とのことばの世界の大きな相違、自然観の差。しかしまた「世界中のどこにおいても、内因性の精神病は人間存在を全面的に変えるものである。」そこでは個人差も性別も人種の差別もない。本書で語られるメランコリーの多彩な症例、そのすべては、まさにわれわれの身近かのものではないか。臨床観察とその綜合的解釈にみられる精緻さは、たぐいがない。
『メランコリー』は1983年ドイツ本国で第四版が刊行、両極型躁鬱病についてのまとまった一章が加えられるなど、大幅に改訂された。本書は、今回書き改められた部分を加えた増補改訂版である。

目次

第4版の序文
第2版の序文
第3版の序文
日本語版への序文
序……V・E・フォン・ゲープザッテル

I 問題の所在の歴史的展望。先見的回顧
1 メランコリー論への史的覚え書
2 ヒッポクラテス全集におけるメランコリー親和型性格とメランコリー
3 プラトンのマニア学説と躁鬱の両極性
4 メランコリーと天才性——アリストテレスの画期的構想
5 天才性の条件としてのメランコリー(W・シラジ)
6 想像的な天才とメランコリーとの関連(ゲントのハインリッヒ)
7 ギリシャ的メランコリー観の特徴

II 根源としての内因性
1 臨床精神医学における種種の原因野
2 研究の道程の方法論的基礎づけ
3 内因性事象のスペクトル
a 生命的事態の基本形態としてのリズム性/b 事態のリズムの変動/c 生命的事態の動きの変化/d 変化の全面性/e 成熟段階との結びつき/f 可逆性/g 遺伝的側面。特異的表現型が遺伝子的に設定される可能性——特異的なコスモス因性発見——病因的状況の類型因性「状況構成」
4 内因性の全体的観点
5 ハイデッガーの意味での「現存在」の欠如態的解釈を通じて、内因性の問題の哲学的立脚点を規定する試み
6 被投性と状況的(生命的)意味指示性との相関
7 エンドンの領域的規定
8 内性論。内因性の存在領域での研究

III メランコリー親和型。動的類型学——メランコリー親和型の本質明示の方法
A 従来の類型学とそれの病因論との連関
1 アーブラハムとフロイトにおける躁鬱病者の病前性格構造
2 クレッチュマーの循環気質
3 マウツの病前性格類型とメランコリーの類型分類
4 敏感関係妄想(クレッチュマー)——病因論的類型学の一範例
5 「執着性格」——下田における躁鬱病病前性格
B メランコリー親和型の本質構造とそれの前メランコリー状況の展開にとっての前提条件としての意義
1 几帳面さへの固着——メランコリー親和型に必須の基本的特徴
2 仕事の世界の秩序
3 仕事の量と制度との悪循環の危険
4 対人関係の秩序
5 対人関係の秩序の障碍がメランコリー親和型の人におよぼす危険
6 メランコリー親和型の人の良心性
7 良心の負担や板ばさみによる危機
8 自分の病気による危険
メランコリーへの落ち込みとメランコリーからの離脱にとっての睡眠奪取の意義についての補説
9 生殖過程における危機的状況
10 メランコリー親和型の秩序の様相
11 内因性メランコリー者の病前性格に関する客観評定的研究
12 役割と同一性を媒体とする躁鬱病者の自己実現(A・クラウス)

IV 内因性メランコリーの病因論
1 状況心理学について
2 「インクルデンツ」の布置
3 「レマネンツ」の布置
《負荷解除鬱病》(W・シュルテ)および《根拠喪失鬱病》(H・ビュルガー=プリンツ)についての補説
4 動的類型学——メランコリー親和型の人は周囲の世界を「彼なりの」状況へと「状況構成」する
5 「絶望」——メランコリー性精神病導入状況の公分母
6 変化の「瞬間」。エンドン指向性(前メランコリー性)状況——エンドン変動——内因性(メランコリー性)状況

V 臨床的討議
A 罪責メランコリーの臨床と精神病理学——内因性メランコリーにおける罪責体験の変形
1 内因性の変形を受けた罪責体験の主題としての精神病期間中の可能性喪失
2 内因性の変形を受けた罪責体験と、それの精神病期間外の罪責内容との関連
3 「微小過失」について
B 諸種のメランコリーの疾病論と分類
1 精神病性抑鬱に対する名称としての「メランコリー」
2心因性および内因性の「抑鬱」。抑鬱反応と体験反応後の内因性メランコリー——抑鬱神経症と神経症からの内因性メランコリー
3 身体因性および内因性の「抑鬱」。「身体因性鬱病」か、身体疾患に際しての、あるいは身体疾患後の「内因性メランコリー」かの問題
4 明らかに状況と結びついた(状況特異的)メランコリーと、状況との結びつきが明らかでない(いわゆる自生的)メランコリー
C メランコリー治療の基本的問題
1 抗メランコリー治療における感情調整療法の段階
2 抗メランコリー治療における感情調整療法以外の段階
3 病前性格構造を精神分析的に変更する試みとしての抗メランコリー治療

VI 躁鬱病——躁鬱病者の病前性格の解体的な歪み
1 現存在の諸可能性の機能としての超越
2 躁鬱病者の病前性格
3 躁鬱病者における超越の実例
4 患者 M・B・Kと患者Sch・A

第4版の異同
あとがき
原注
訳者あとがき
改訂増補版への訳者あとがき

文献
人名対照表
事項索引