みすず書房

〈儒教の中には今なお生きているものが存在し、また、それを正当に更に生きしめるべきであると信ずる。私が期待するのは儒教に対する冷静な分析、正当な評価であり、新しく総合的に創造さるべき現代文化のなかでそれが生かされることである.。〉(東アジア知識人会議における著者の報告より)

著者の中国思想史研究がエポック・メイキングであったのは、この「儒教文明は未来を紡ぐに足る思想」と確信する立脚点に立ったからにほかならない。本書は、その著者が中国の前近代思想にかんして様々な機会に、そして一般読者に向けて書いた文で編まれている。巻頭におかれた中国像の全体から、著者によって再発見された思想史の黄金時代「明末清初」にかんする各論、そして古典の注釈、学問の方法、さらに著者の学問の源泉をなす先学についてのエッセイ、自画像というべき「自述」に至るまで、実に緊密な構成をもった一巻である。
透徹した分析の眼とともに、根柢に流れる「中国の伝統思想」に対する哀惜と畏敬の念が、執拗低音のように感じられ、快い。著者の「東アジア儒教史」の雄大な構想は果たされなかったとしても、そのためになされた「伝統」をめぐる著者の思索に、遺されたこの一巻を通して耳を傾けることができるのは、「近代」以後を生きる読者すべてにとっての幸いであろう。

目次

I
中国
明代文化の庶民性
文運栄える乾・嘉
士大夫思想の多様性

II
中国の伝統思想
王艮
良知説の展開
明清の思想界
明代思想研究の現段階
陽明学と考証学
序(小野和子『明季党社考』)
序(福本雅一『明末清初』)

III
大学・中庸 解説
王陽明集 解説
注釈ということ
『大学』の解釈
安田二郎『中国近世思想研究』 解説
狩野直喜『春秋研究』 解説

IV
黄宗羲と朱舜水
朱子と三浦梅園
武内博士の学恩
似つかぬ弟子
無題
私の内藤湖南
宮崎史学の系譜論
あとがき(川勝義雄『中国人の歴史意識』)
跋(森紀子訳『中国近世の宗教倫理と商人精神』)
跋(山本和人訳『論語は問いかける』)

V
自述

解説(小野和子)

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