みすず書房

仏教・キリスト教・イスラーム教について、世界最大の民俗宗教であるヒンドゥー教には、仏陀やキリストやマホメットのような開祖は存在せず、したがってその発生・成立年代も詳らかではない。またヒンドゥー教には、キリスト教の『聖書』や、イスラーム教の『コーラン』に相当する信徒共通の聖典も教義も見あたらない。
悠久の大地インドは、その数千年の歴史のなかに、バラモンの宗教文学であり根本聖典でもある膨大な『ヴェーダ』の大系を擁し、二大叙事詩である『マハーバーラタ』『ラーマーヤナ』を生み、その風土のなかで独自の文化を築き上げてきた。その中心に厳然としてあるのがヒンドゥー教である。
バラモンは「通常、驚くべき判断力と、完璧なまでの学問、すなわち識見をさずかっている。ピュタゴラスやプラトンでさえ、知恵や知識を求めて彼らのもとに行くことを恥とはしなかった」(トマ・ラ・グリュー)。
ヒンドゥー教はその始めから伝説になっていたといえる。それはまた世界の宗教の多様性そのものを内包し、種々の新興宗教を生みだしてきた。
「ヒンドゥーに生まれることはできても、ヒンドゥーになることはできない」といわれるヒンフォゥー教を、外来の宣教師のヒンドゥー教論でもインドの護教論の立場からでもなく語ることは至難のことである。
インド(現バングラデシュ)に生まれ20世紀インドと運命を共にし、今オックスフォードに暮らす著者にして初めてなしうることであろう。

目次

凡例/訳者凡例
謝辞
序言

序論 ヒンドゥー教とは何か
第一部 歴史的考察
第1章 ヒンドゥー教の歴史——その方法論
第2章 ヒンドゥー教に関する歴史的資料
第3章 ヒンドゥー教のインド・ヨーロッパ的核心
第4章 インドで起こったこと

第二部 現象の描写
第1章 描写の出典
第2章 地方的・社会的多様性
第3章 ヒンドゥー教に本来内在する多様性
第4章 司祭と宗派
第5章 ヒンドゥーの生活にみる宗教規制

第三部 分析的展開
第1章 ヒンドゥー教に見るいくつかの特徴
第2章 シヴァ崇拝とドゥルガー=カーリー崇拝
第3章 クリシュナ崇拝
第4章 宗教から得たもの
結び ヒンドゥー教の精神性


訳者あとがき
参考文献
索引