みすず書房

学問の制度化の進行とともに、専門的分析と文明批評とが乖離していく。そうした状況にあって、若者は、アカデミーとジャーナリズムの間での知的活動のあり方を自らも模倣しながら、80年代の政治と社会に対して積極的に発言してきた。
この評論集の冒頭におかれた〈知識人の現在と公共性〉は、東大教養学部の人事をめぐる事件を一つの素材としながら、80年代の知識人と論壇の構図を描き、公共性の機能を果たせなくなった社会層としての知識人の問題を探る。その論壇で近年にわかに高まってきたのが、国際化とナショナリズムをめぐる論議であろう。〈日本人のアイデンティティ〉といい、〈自分の物語〉といわれるものの実体はなにか。〈見えない《他者》——《国際化》の陥穽〉〈新国家主義と戦後思想〉等の文は、それに対する鋭い分析と批判である。これらその時々に論壇で注目を浴びた時評・書評は、専門家と政治的立場によって見えなくなりつつある〈時代のテーマ〉を鮮明に示している。まさに〈社会科学〉の仕事といえよう。