みすず書房

戦争では武力による戦闘の陰で、通貨の闘いもまた激烈を極めた。15年戦争期の中国においても、国民政府の通貨=法弊を中心に、日本側の軍票・聯銀券・満銀券・儲備銀行券、そして共産政権の抗日根拠地のソビエト貨幣の間で三つ巴の抗争が展開した。法弊が英・米両国の経済援助を受けている間は、日本円対ドル・ポンドの対立の観も呈した。しかし敗戦とともに日経通貨は崩壊し、法弊に吸収され、中華人民共和国が成立して、法弊も人民弊に最終的に統一される。1955年の価値改訂によって、人民弊の安定工作も達成された。
本書は、この近代中国の通貨統一の過程を、膨大な新聞・雑誌等の逐次刊行物の記事、外交・金融関係の未公刊文書に克明に追う。通貨制度・通貨政策の展開、通貨価値の推移が明らかにされるとともに、通貨闘争の叙述を通して、近代日本の東アジアにおける軍事的植民地建設の営為も鮮明に示されるであろう。