みすず書房

主著『法の概念』で知られ、現代法理学の代表とされるハートは、法哲学・法解釈学を中心に、広く哲学・倫理学・社会哲学の分野にまで大きな影響を及ぼしている。本書は、彼がこの30年間に発表してきた論文の集成である。
若い頃より分析哲学に親しみ、『言語と行為』のオースティンや『心の概念』で名高いライル、ストローソンらと交流のあったハートは、言語哲学と法の問題を関連づけて考究することによって、現代法学に新しい出発点を画した。しかもオックスフォードの法理学教授就任以来の彼の生活は、学問的論争の連続であったとも言える。どこまで道徳を法によって強制することが適切であろうかどうかをめぐっての貴族院裁判官デブリン卿との論争、法の特質をルールであるというところに求めるのが妥当か否かについてのアメリカのリアリストやドゥオーキンとの論争、自由主義の伝統に立つ功利主義がどこまで擁護できるかに関するノージックとの論議など、枚挙にいとまがない。そうしたハートの広い射程と、問題に取り組む緻密でダイナミックな思考過程が鮮明に示されている。イェーリング、ケルゼンから『正義論』のロールズまで、20世紀法思想を展望した刺激的な論集である。

目次

法理学における定義と学説
実証主義と法・道徳分離論
アメリカ法理学
スカンジナビア法理学
自己言及法
功利主義と自然権
効用と権利の間
自由とその優先性についてのロールズの考え方
社会的連帯と道徳の強制
イェーリングの概念の天国と理代分析法理学
ケルゼン訪問