みすず書房

悩む力 電子書籍あり

べてるの家の人びと

判型 四六判
頁数 248頁
定価 2,200円 (本体:2,000円)
ISBN 978-4-622-03971-6
Cコード C0047
発行日 2002年4月16日
電子書籍配信開始日 2016年7月8日
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悩む力

北海道、浦河。襟裳岬に近い過疎の町に「べてるの家」がある。精神障害を抱える人たちがみずから共同住居と作業所をいとなんで、長い年月が過ぎた。
特産の昆布からさまざまな商品を作って売る。これがべてるの活動の根幹である。そのユニークな自己表現は全国から注目を浴び、地域社会とともに新しい道をさぐる姿に共感が集まっている。

けれども、ここまで来るにはじつに語りつくせないほどの苦労があった。病を持ちながら一人の人間として生きるとはどういうことなのだろうか。べてるでは、効率優先の現代社会とはひと味違う原則が貫かれている。無理はしなくていい。治さなければと焦ることはない。「そのままでいい」のだ。悩みを持つ仲間と語り合い、ともに過ごす。そこには弱さを絆にした豊かな人間関係が息づいている。
なぜこのような生き方が可能だったのか? それを問いはじめた著者を待ちうけていたのは、自分自身の精神の漂流だった。

目次

土を食む
マサルの幻聴/共同住居/管理ではなく/べてるの顔/悩む教会/そのままでいい/ケンちゃんの電話/商売しよう/べてるのいのち

場をつくる
町へ/べてるの家の本/いまのしあわせ/SST/落ちてみるか/苦労が詰まっている/楽しい分裂病

灯をともす
魔性の女/病気のセンス/人と話すこと/孤高の戦士/分裂病の真実/絶望から

あとがき

著者からひとこと

『悩む力』のために、よく浦河に旅をした。

北海道の、日高山脈が海に落ちるあたりにある海辺の町の人びとを訪ねるために、ぼくはもう20回あまり、100日をこえる旅をしたことになる。それは「べてるの家」とよばれる共同住居を訪ね、そこで暮らす人びととあれこれつきない話をするためであった。そしていつも、精神障害を背負いながら生きている彼らの一筋縄ではいかない苦労や、奇抜なエピソードの数々、そのおかしさや苦労を逆手に取った生き方にほんろうされるのだった。それまでぼくはかぞえきれないほど旅をして、地球の裏側まででかけていったこともあるというのに、浦河のような、人間の真実が路傍の石のようにころがっている町にたどりついたことはなかった。そこでぼくは意表をつくことばに出会い、ときに涙が出るほど笑い転げながら、いつもきまって「べてるっていったいなんだろう」という思いにとらわれるのだった。

そして「これがべてるだ」とわかったと思うそのとき、べてるの家はもうそこにはいない。こうなんだ、こうにちがいないといい当てた瞬間に、べてるはそうではなくなってしまう。それははてしのないミステリーなのだ。いまなお浦河への旅をかさねているぼくは、途方にくれながらそこでもうひとつの旅をつづけている。 (2002年6月 斉藤道雄)

書評情報

読売新聞(いしいしんじ・評)
2010年6月26日
読売新聞(いしいしんじ「人生案内」)
2021年1月16日