みすず書房

1995年に起きた阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件以来、「こころのケア」や「トラウマ」という言葉は、日本でも周知のものになった。大地震や自然災害がもたらす心の傷、そしてまたレイプや子どもへの虐待、ドメスティック・バイオレンスなど「犯罪被害者」にかんする記事も、日々の新聞をにぎわしている。しかし、被害者をはじめ、医療・福祉・行政、それに周囲の人たちへの指針は、端緒についたばかりだ。

本書は、1997年10月に神戸で開かれた国際シンポジウムを骨子とする。〈トラウマとは何か。トラウマから回復するにはどのようにすればよいか。直接の被害者だけでなく、間接の被害者に対しても、どのように対応すべきか。〉国の内外からの第一人者8氏が熱意をこめて具体的に報告した本書は、この国の必須の課題への最も信頼に価するメッセージである。

目次

「被災地のその後——阪神・淡路大震災の33カ月」   岩井圭司
「子どもと災害——長期的帰結と介入についての発達論的観点」   ロバート・パイヌース
「地下鉄サリン事件——被害者の孤独と外傷後ストレス障害」   中野幹三
「自然災害の長期的転帰」   アレキサンダー・マクファーレン
「犯罪被害者のトラウマへの対応」   小西聖子
「トラウマ、家族、コミュニティー」   ジュディス・ハーマン
「こころのケア」の4年間——残されている問題」   加藤寛
「災害と日本人」   中井久夫

書評情報

坂本哲史
朝日新聞(別刷)be2011年7月23日(土)