みすず書房

〈メイエルホリトは未来の諸劇場を植え付けた。未来は彼に酬いるであろう〉
(ワフタンゴフ)

20世紀初頭から30年代にかけては、彼のひとつひとつの演出が新しい演劇であった。ブローク『見世物小屋』、マヤコフスキ『ミステリヤ・ブッフ』、クロムランク『堂堂たるコキュ』、オストロフスキー『森林』等々の舞台に、また「ビオメハニカ」という新しい演技の原理に、彼は現代演劇の基本的構図を大胆に画いていった。彼は常に、ロシア・アヴァンギャルドの第一線にあった。しかし、1939年、その姿も粛清の嵐に消えた。「フォルマリズムを狩り出しつつ、諸君は芸術を滅ぼしてしまったのだ!」という言葉を最後に。——そして、彼の遺産は、エイゼンシテイン、ブレヒト、ピーター・ブルックへと継承されていく。

劇場のオーケストラ席からモスクワ演劇の全盛期を見たエラーギンにして初めて描きえた、創造の悲劇を自らの内に宿す「暗き天才」の像。本書は、演劇の永久革命者であり、20世紀最もラディカルであったひとりの演劇人の、悲劇的運命について語る。