みすず書房

フィラデルフィア美術館所蔵のマルセル・デュシャンの大ガラス作品「彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも」を特別許可のもとに撮影した奈良原一高のカラー写真55点を初めて発表するオリジナル作品集。1973年、ニューヨークに住んでいた奈良原のもとを訪れた瀧口修造は、最後のデュシャン論のための写真を自由に撮って欲しいと依頼、写真家は、この作品を「一枚の割れたガラス」と思って、対決するように撮影した。瀧口は書き上げられぬままこの世を去り、メモだけが葉書の木箱に残された。
十余年を経て実現された本書は、その写真群、亡き二人に捧げる奈良原のテキスト、「シガー・ボックス」に納められた全メモの原寸複製から成る画期的な美術書である。デュシャンに捧げる写真集。

僕にとって、それは「光のガラス、時間のガラス」でした。絶えずカラー・メーターを片手に、そのときの光の性質に応じて様々に色温度を調節するフィルター・ワークに終始しました。閉じこめられた物質の内蔵的な真チュールや色をダイレクトに取り出すために、すべてはそこに流れる時間に身を任せたのです。(奈良原一高)