みすず書房

グレン・グールド著作集 1

バッハからブーレーズへ

THE GLENN GOULD READER

判型 A5判 タテ210mm×ヨコ148mm
頁数 384頁
定価 5,500円 (本体:5,000円)
ISBN 978-4-622-04381-2
Cコード C0073
発行日 1990年11月 6日
備考 品切重版未定
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グレン・グールド著作集 1

グレン・グールドは1982年に50歳でこの世を去った。この類まれなピアニストは同時に才気あふれる放送作家であり、傑出した(そして機知に富む)批評家でもあった。音楽雑誌、アルバム・ジャケットに発表された彼の文章は、その演奏と同様、しばしば挑発的である。わがままで、強引で、ときには激昂するが、つねに刺激的で、独自の芸術的洞察の産物にほかならない。

本書は、1956年最初の“ゴルトベルク”変奏曲レコーディングのときの覚え書きから、死の直前に編者ティム・ペイジと交わされた感動的な対話にいたるまで、グールドが公表を前提にして書いたり話したりした言葉のほぼ全部を、初めて集成したものである。これによって、われわれは音楽的才能のかげに隠れていた、一つの知性の全容を理解できるようになったといえよう。

この巻で、グールドは作曲家について書く。バード、バッハ、モーツァルト(「わたしにとってト短調交響曲は、陳腐な時間が半時間も続くなかで、八つの特別な小節だけしか値打ちがない。」)からシェーンベルク(「ピアノに逆らう作品は書いていない。しかしピアノに媚びて書いたと責められることもない。」)、ベルク、テリー・ライリーまで。べ一トーヴェン(「その名声がゴシップにだけよっている作曲家」)からリヒャルト・シュトラウス(「今世紀に生きた最大の音楽家」)まで。全2巻。

グールド研究の第一人者・宮澤淳一氏からひとこと

この2007年はグレン・グールドの「生誕75年+没後25年」である。
グールドをめぐる催しが今年は世界各地であるが、その最大のものは母国カナダの文明博物館(オタワ=ガティノー)で9月末より始まる特別展「グレン・グールド展——天才の響き」であろう。
カナダの文明博物館は、人類の文化・文明の歴史を追い、そこに「カナダ」の誕生と歩みを位置づける常設展を主軸とした、カナダ人のアイデンティティの形成に資する施設である。つまり、ここで展覧会が開かれるということは、カナダ(人)の自己確認と対外的アピールのアイコンとしてグールドが選ばれたことを意味する。
確かにアイデンティティの問題はカナダ人グールドの思考を理解する上で大切だが、彼に「カナダ」をどこまで背負わせるべきなのか、わからない。カナダでのグールド評価は欧米や日本での人気を追いかけてきた面があるけれども、少なくとも私たち日本人とグールドとの関係は、そういう歴史・文明・文化における位置づけよりも、むしろ、もっとパーソナルな傾向が強いと思われる。
グールドの演奏ならではの躍動感、抒情性、挑発性に驚かされ、夢中になった人にとって、グールドはかけがえのない親密な友となる。その演奏をさらに聴きたいし、生涯について詳しく知りたい、書いた文章も読みたい。
要するに、グールドの「声」をもっと聴きたいのだ。録音の背後に聞こえる鼻歌だけではない。一聴して「グールドだ」とわかるあの弾き方や、自由闊達で良質のユーモアに彩られつつも、どこかはにかみがちな各種の文章や発言にも、グールドの「声」が宿っている。『著作集1・2』『書簡集』『発言集』は、まさにそうした「声」の宝庫である。録音や映像を通じてグールドの「声」に魅せられた人は、活字の中にも同じ「声」をぜひ読みとっていただきたい。