みすず書房

「物書きのフランス人とは余りつきあいがないけれども、それでもパリに行くたびに是非会いたいと思う人物がいる。ピエール・ナヴィルだ」(鈴木道彦「早すぎた旅人」)。

ピエール・ナヴィルとはいったい何者なのか? 彼はシュールレアリスム運動にその草創期から参加し、弱冠20歳にしてB・ペレと『シュールレアリスム革命』を創刊号から第3号まで共同編集した。ついでこの鬼才は、現実生活におけるブルジョワ性の打破を目指して、シュールレアリスム批判を敢行。左翼反対派(トロツキスト)に与して、第四インターの創立メンバーとなり、反スターリン運動を展開する。大戦後は、この派とも袂を分かち、労働社会学や社会主義の理論的著作に専心し、多くの成果を世に問うている。

本書は、この極めて早熟かつ批判精神に富み、つねに時代の前衛として現代史を駆け抜けた思想家が、自らの足跡を振り返ったユニークな回想録である。シュールレアリストたちの群像、その理想と現実、ブルトンとの相克、文学とコミュニズムの関係など、興味津々たる現場からの報告・証言に満ちている。

シュールレアリスムを中心とした現代芸術・思想を解読する上で必ずリファーされる一冊。