みすず書房

「来るべき統一されたヨーロッパという理念は、早くもブゾーニのなかにその代表的な体現者を見出していた……彼は5つの言語を流暢に使いこなし、手紙のなかではドイツ語、イタリア語、フランス語を同じくらい正確に用いることができるのだ」(H.H.シュトゥッケンシュミット)
イタリアにクラリネット奏者を父に、ドイツ・イタリア混血のピアニストを母に持ち、19世紀から今世紀にかけて、ベルリンやヴィーンを中心に華やかな活躍を続けた作曲家=ピアニスト、フェルッチョ・ブゾーニ、指揮者、著述家、教育者など、実に多彩な音楽活動を精力的に行った彼にとって、オペラはその中核とも言えるジャンルを形成していた。
みずから「自伝的作品」と呼ぶ大作『ファウスト博士』をはじめとする充実した作品群は、現代音楽の〈もうひとつの可能性〉を示す豊かな源流として、再評価が高まりつつある。本書は、ブゾーニのオペラ論や未完の作品、作曲されなかった台本にまで射程を広げ、ヴォーグナー以後の音楽状況を誠実に生き抜き、同時代人シェーンベルク、愛弟子クルト・ヴァイルらとの刺激的な交流を通して、新しい時代への強烈な指針を与えた思想の在りか、魅力あふれる創作世界の全貌を見事に甦らせる。
気鋭の研究者=批評家として注目を集める著者の、10年にわたる取り組みが集大成されたこの長編評論は、オペラというジャンルの持つ過去・現在・未来それぞれの意味を、改めて力強く問いかける力作である。