みすず書房

1955年の秋、パリ留学の機に矢内原伊作はジャコメッティを訪ね、翌年から5度の夏をジャコメッティのモデルをして過ごした。その最初のきっかけをつくったのが著者である。著者自身も後に、親友矢内原を介して偉大な芸術家と接するようになる。

ジャコメッティをよく知ることで、ジャコメッティの芸術への理解は深められていった。矢内原を描くことで、ジャコメッティの創作は変化した。そして、ジャコメッティとの出会いによって、矢内原と著者の関係も変わっていく。このような創造的な友情が、他にあるだろうか。

本書第 I 部はジャコメッティ論というべき洞察に満ちたエッセーを集める。第 II 部は矢内原との「対談 ジャコメッティについて」である。矢内原の肉声にふれるような錯覚とともに、絶妙のやりとりのなかからジャコメッティその人の姿がありありと浮かび上がってこよう。第 III 部にはおもに1989年の矢内原の没後に書かれた、無二の友を語る胸に迫る掌篇を収める。

目次

I アルベルト・ジャコメッティ
パリ・サンファン
歩く男の像
アルベルト・ジャコメッティと矢内原伊作展に
あるディエゴの胸像
ジャコメッティのデザイン
ジャコメッティの薄明
夜と死者たちの時
法王の貨幣
  小さなマケット/初めて声をかけたとき/浮浪と集中/モンパルナスのドームのバー/冬のスタンパ——法王の貨幣
ジャコメッティの死

II 対談 ジャコメッティについて  矢内原伊作/宇佐見英治

III 矢内原伊作
矢内原伊作の死とジャコメッティ
未知なる友
最後の日々——前夜祭での挨拶
矢内原伊作 スケッチブック展によせて
矢内原伊作追悼の夕べ
時空の彼方で
二つの書評
『若き日の日記』/『たちどまって考える』
矢内原伊作の詩「挽歌」について
遊びにくるのは

あとがき
初出一覧

書評情報

日高理恵子(画家)
日本経済新聞2010年2月13日(土)