みすず書房

「若い戦後派の作曲家たちにとって戦前の作曲界の遺産は自分たちに無力のものとして感じられたのは事実であった。かれらの新しい出発にあってそれは当然なことであった…だが、ある時代の挫折はまた後の時代に繰り返される。同じ矛盾をいつまでもひきずっているということにも気づかない。そんな過ちを自分の内部にもひそませていることになりはしないか。ぼくは、あらためて日本の作曲界の半世紀の歩みをいま確かめ直してみようと考える」

現代からは断ち切られたように見える戦前の作曲家たちが、どのような状況にあって、どのように考え、作曲してきたのか。
菅原明朗、諸井三郎、中原中也、内海誓一郎、石川義一、伊藤昇、原太郎、守田正義、露木次男、吉田隆子、清瀬保二、松平頼則、山根銀二、宮沢縦一、一條重美、永井荷風、早坂文雄…、楽団スルヤ、プロレタリア音楽活動、新興作曲家聯盟…、多くの個人、グループ、そして幅広く史資料を渉猟し、ひとつひとつの作品にあたり直し、作曲家たちの行動を明らかにして行く。
西欧の新しい技法を身につけることを求められ、一方では自分たちの日本の音楽を模索する作曲家たちの前に、立ちはだかった大政翼賛体制が突きつけてきたものは何だったのか。
音楽家たちの戦争責任を問いつつ、日本の現代音楽の歴史を問い直す意欲作。

目次

序章
 はじめに
 菅原明朗の証言

1 楽団スルヤの夢
諸井三郎の出発
間奏曲=詩人中原中也をめぐって
内海誓一郎に訊く

2 日本の未来派音楽
石川義一の音の〈渦巻〉
単独者の冒険——伊藤昇の場合

3 プロレタリア音楽活動
原太郎の場合
守田正義の場合
露木次男に訊く
吉田隆子の場合

4 新興作曲家聯盟のころ——結成から解散まで
清瀬保二に訊く
松平頼則に訊く
清瀬保二に訊く(2)

5 戦争下の「過去」と「現在」
証言者・山根銀二、宮沢縦一
守田正義の場合
一音楽ジャーナリストの眼

6 菅原明朗・オペラ〈葛飾情話〉

7 「日本的なるもの」の虚構
早坂文雄の挑戦
「日本的」作曲をめぐる論争

Entracte(幕間)

編者あとがき  林淑姫
初出一覧