みすず書房

「暇な時には手近な本に手を伸ばし、忙しい時におもしろい本にひっかかって舌打ちをする。旅で地方都市に行けば、名物料理おみやげ古道具の類は頭から無視しても古本屋はついついのぞく。つまり、読書や本との交際は趣味や義務や仕事ではなく、性癖なのだ。暇をもてあまして貧之ゆすりをする者がおり、身代を博打でするうつけ者がおり、さんざ女に騙されても好色の気の抜けない道楽亭主がいるのと同じように、世の中には本というものにからめとられる人生もある。つまりは癖、読書癖というものではないだろうか……同じ癖をお持ちの御人ならば少しは楽しんでいただけるかもしれない。そういう本であり、そういう著者である。」(あとがき)

『薔薇の名前』から理科年表、李賀の詩から石川淳の力学へ、また童話からSFへと、扱う対象はじつに多様、まことに壮観である。しかし著者の手さばきはしっかりと一点、すなわち“読みふける喜び”に集中している。書巻の気に充ちながらも風通しのよい文章によって展開する、本と読書をめぐる秀抜なエッセー=書評97篇。

目次

I
長い歴史の楽しみ方
球場の雰囲気
裸体のストーリー性 他
II
戸田ツトム『断層図鑑』
山根一真『変態少女文字の研究』
日野啓三『砂丘が動くように』
小山政弘『夢の国日誌』
キャメロン/サリンジャー『パリ空中散歩』
川本三郎『感覚の変容』
『ちくま文学の森1 美しい恋の物語』
R.・リテル『スリーパーにシグナルを送れ』
伊藤俊治『〈写真と絵画〉のアルケオロジー』
京都大学人文科学研究所『「悪の華」注釈』
松山厳『都市という廃墟』
読む幸福と書く不幸
吉行淳之介『目玉』
石川淳『蛇の歌』
花崎皋平『静かな大地』
大岡昇平『母』を読む
オオバンクラブの話
『地球/母なる星』体験の報告
八十年前の日本案内
『天工開物』讃
『理科年表』の世界
波瀾万丈のあなたの人生
あとがき