みすず書房

「紙というものが手に触れる感じ、白い紙の上に黒い文字が乗っている視覚的印象、本の重さ、紙が放つ匂いなど、つまり本というものの質感は読書体験にとってずいぶん大事だ。本の話というといつも内容を理解して自分のものにすることが重視される。それはもちろん当然のことなのだが、その一方でモノとしての本が五感に与える快楽はなかなか無視できない。手の上に乗る大きさでありながら、宇宙全体を中に秘めうる魔法のからくり。その具体的形態としての束ねられた紙……本当に楽しんで読みたい時にブラウン管に映る文字を目で追って『パルムの僧院』を読みとおすというのは、やっぱり楽しくないだろう。」(本の質感)

藤沢周平やジョン・ル・カレ、読んでいない必読書、さらにブローティガン、ゲバラ日記など、読書の醍醐味を開示するコラム76篇を収めた待望の第二集。また本書の圧巻はなによりも、クンデラの『存在の耐えられない軽さ』の文学世界を詳細に分析した一文であろう。これは現代のヤワな批評の中にあって、もっとも良質な書評=評論の見本である。

目次

I
謎のニサツタイ
旅先で地名に出合う
鎧の中はからっぽ 他
II
増殖する細部(ルーシャス・シェパード著『戦時生活』 )
人とモノの動きを見る史観(鶴見良行著『ナマコの眼』)
科学の現場から(立花隆・利根川進著『精神と物質』)
『西洋思想大辞典』 書評事典の試み
一つの私的な読みとして(アントニオ・タブッキ著『インド夜想曲』)
III
クンデラ小論 あるいは『存在の耐えられない軽さ』の重さ
あとがき
書名索引