みすず書房

「彼女は人間の女性で、彼は犬だ。このようの密接に結ばれながら、このようにはなはだしくかけはなれて、二人はお互いを見つめあった。それからフラッシュはひとっとびソファに跳びあがり、これから先ずっと寝ることになる場所——バレット嬢の足もとのひざ掛けの上に身を横たえた。」

本書は、愛犬フラッシュの眼を通して、英国19世紀の有名な女流詩人エリザベス・バレット・プラウニングの波乱にとんだ生涯を描いたユニークな伝記である。ウインポール街における病弱な詩人との出会いに始まり、ロバート・プラウニングとの秘かな恋、ホワイトチャペルの犬泥棒の恐怖を経て、イタリアへの駆け落ちと、二人三脚のドラマは展開してゆく。また、家父長制との確執、貧民窮の様子、英国とイタリアの対比、心霊術など、当時の社会背景もこの伝記の奥行きを深いものにしている。前衛的な小説『波』のあとに、「犬になりたいと思う小説家」によって書かれた、ウィットに満ちた軽快な伝記。姉のヴァネッサ・ベルによる挿絵もこの作品をいっそう愉しいものにしている。