みすず書房

〈私は、子どもの文学を変えた作家たちの作品に新鮮な魅力を感じるが、1950年代の輝くばかりに楽天的な子どものための作品を再読すると「うん、いいよなー」と感動する。この二つの気持ちはどこかで融合しているのだろうか。今江祥智はその“どこか”をみつけていると思う〉(神宮輝夫)。
『山のむこうは青い海だった』(1960)以来きょうまで第一線をはしりながら、季刊誌「飛ぶ教室」を編集し、倉本聰や河合隼雄のような書き手・読み手を拍手で迎え、著者は子どもの本の領域をひろげることに心を傾けてきた。
その著者が、子どもの本と大人の本の〈境界〉はあると、あらためて言った。それなら子どもの本は何を描くか。
作品は希望の約束、〈言いかえてみると、むこうの山にのぼったら、青い海が見えるだろうかどうだろうか——〉(22ぺ一ジ)。

老年の編集者を気どった自由な児童文学三十年の検証や、本というものをこよなく愛する著者が読む、花田清輝からバンサンの絵本、石井睦美の最新作まで。子どもの本の現在を一望する今江祥智評論集。

目次

1 幸福の擁護

2 子どもの文学がうまれる
プー横町の三十年/過去へのまなざし/古典といま/出版者たちの飛行/「飛ぶ教室」始末記/絵本「楽」ことはじめ/初心にかえる?

3 子どもに語る大人に語る
子どもが見えてくる/子どものいる風景/少年詩の方位/さくらのことばで/きらきらひかるということ/プーさんとミルンさんのこと/ナンセンスのこと——連想ふうに/癒すということ

4 ことばのつむぎかた
やわらかなことばで/昔噺の再話/訳文よみくらべ/生きる悦びを/やっぱり詩人/おいしい本/土を馴らすということ

5 読むことのなかから・書くことのなかから
河合隼雄さんをめぐって/ケストナーの大きな本/花田清輝の書かれざる傑作/中勘助の『銀の匙』/ガブリエル・バンサンの世界/始まりの嬉しい一冊——『マサヒロ』のこと/稲見一良さんの一冊/岩瀬成子さんの一冊/子犬の耳——落合恵子さんの本/友情について——石井睦美さんの一冊/分厚い本の愉しみ/高杉晋作とともに

6 夢色の交友録二つ
a 松居直さん/赤羽末吉さん/長新太さん/谷川俊太郎さん/和田誠さん/宇野亜喜良さん/手塚治虫さん/田島さんと田島さん/神沢利子さん/片山健さん/阪田寛夫さん/宮崎学さん/瀬川康男さん/あまんきみこさん/中川李枝子さん/古田足日さん/山下明生さん/西郷竹彦さん/神宮輝夫さん/河合隼雄さん/秋野不矩さん/中川正文さん/二宮由紀子さん/川島誠さん/岩瀬成子さん/高田桂子さん/杉浦範茂さん/津野海太郎さん/黒木和雄さん/工藤直子さん/倉本聰さん/串田和美さん/山田太一さん/江國香織さん/石井睦美さん/刈谷政則さん/島式子さん/増田喜昭さん/落合恵子さん/遠藤育枝さん/伊藤英治さん/灰谷健次郎さん/上野瞭さん/山村光司さん/モンタンさん
b レオ・レオニ/ディック・ブルーナ/マリー・ホール・エッツ/ライナー・チムニク/ポール・ランド/ユリー・シュルヴィッツ/アロワ・カリジェ/トミー・アンゲラー/アーノルド・ローベル/モーリス・センダック/ハンス・フィッシャー/フェリクス・ホフマン/ジャクリーヌ・デュエム/ガブリエル・バンサン/C・V・オールズバーグ/ショーエンヘール/ヨーレン/ウッド夫妻/ヴォルフ・エールブルッフ/レイモンド・ブリッグズ/ビジョー・ル・トール/エリック・ローマン

ブックリスト——とりあげた本から
あとがき
初出一覧
索引

担当編集者からひとこと

書名は、ヘレン・ガードナー『想像力の擁護』(和田旦・加藤弘和訳、みすず書房、1985)から。どんなタイトルをお考えでしょうとうかがうと即答でした。カバーに用いた画はアンリ・マティス作品。こちらもご相談して即答だったと記憶します。頭のなかに本のできあがりの姿かたちがとうに見えていらしたにちがいありません。