みすず書房

戦後50年を経て、この国の混迷はますます深い。生と死をめぐる存在論的思考を見事に展開した最新長篇『迷宮』を上梓して「中期前半の仕事」を締めくくった作家の眼は、なおも深く鋭く、現代日本の病弊を衝く。

本巻は、1984年以降の単行本未収録エッセイを一挙に収め、それに『巨人の未来風考察』から自選したエッセイを加えた、ファン待望の一冊である。

社会主義、差別問題、エイズ法案への疑問から、愛好するミステリー、ガン体験、夏休みの回想まで、作家の円熟の筆は味わい深いユーモアを湛え、読者を飽かせない。日本漢詩や俳句、絵画をめぐる文章も、創作の現場でくつろぐ作家の、さりげない舞台裏を垣間見させてくれる。ここには正に、現代日本における思想/文学の最良にして最新の成果が輝いているのである。

巻末対話のゲストには鎌田慧氏を迎え、「個の自立について」をテーマに語り合う。